茶飲み話・銀歯

「銀歯素材8パーセント値上げ」という朝刊記事が目に留まる。厚労省は歯科の銀歯治療で使用するパラジウム合金について5月から値上げするらしい。原因はロシアに対する経済制裁でパラジウムが輸入できなくなり、市場価格が高騰しているからだという。パラジウムは全生産量の4割近くがロシアなのでウクライナ戦争が長引くと影響は大きい。

私が子供の頃は銀歯素材のパラジウムは安価でサンプラといい、これが金歯でなく口元からチラリと覗くと貧乏人とバカにされたもんだ。それが今や金よりも高額で保険適用もされているので、国の医療費負担も大変だという。では金も同様に保険適用すれば、リッチ感のある金歯を入れる人も多くなるのではないか?

昔はこれ見よがしに前歯に高額な金歯を入れる人もいて、まるでパクパクくちを開く獅子舞の獅子のようだと陰口をたたかれた。そういう私も親掛かりの頃の歯科治療はすべて金をつめた。それが自活するようになると金歯は高いのでパラジウムに変わる。かつてイギリスでは医療保険制度が確立すると金歯も無料なので丈夫な歯まで抜いて、後で後悔する事になる金歯にする人が続出した。

「この子は成長したら花王石鹸のお月様マークのような、顎のしゃくれた顔になりますよ!」と突然断言された。それは私が小学4年生の時である。父親が結核を患い東京歯科大学市川病院に入院していた関係で、虫歯になった私はそこで治療を受けることになった。ところが虫歯治療など差し置いて数名の医者がドヤドヤ集まってきた。そして大学教授らしき先生が「これはまずいね!」の一言。

さっそく待合室にいた母親が呼ばれ、説明をうける。私は先天的に前歯のかみ合わせが悪く下の歯が上の歯より前に出る「受け口」というのだ。とりあえず割り箸など噛み上の歯を前に出す試みをすれど、いっこうに直らない。成長期前に直さねば、アントニオ猪木のような顔になるということで、まだ珍しかった高額な矯正治療を2年間うけることになった。親に感謝である・・・。(写真・先日姉が所有していた親父の遺作が我が家に戻る。勝田陶人舎・冨岡伸一)

 

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