松茸
湿気の多い日本はキノコの種類も豊富にある。でもなんと言ってもキノコの王様は松茸ではないだろうか。松茸の食べ方には土瓶蒸を筆頭に、フライ、炭火ヤキ、天ぷらなど色々あるが、いま松茸は非常に高価なので土瓶蒸以外、秋になってもあまりお目にかかれない。我が家ではむかし父親が松茸のフライが大好きで、シーズンになると時々食卓に上がった。当時は国産松茸が今ほど高くはなかったので、父親は松茸を買ってきて自ら調理を行い子供達に振舞った。太い松茸を縦に切って等分し、パン粉をつけ揚げたフライにレモンを絞って食べる。いたってシンプルだがこれが実に旨かった。私の父親はけっこうマメで多趣味、力仕事は苦手だが手先が器用でなんでもこなした。
「いいわねえーその話。お父さんみたいに自分で買ってくれば、いつでも作ってあげるわよ!松茸のフライぐらい簡単だから!」松茸のシーズンになり女房にこの父親のこの話をすると、帰ってくる答えがこれではなかなか実現が難しい。妥協して海外産の松茸でも、フライにする大きさものは結構値がはる。でも以前は欧米など海外では松茸はほとんど見向きもされなかった。彼らにとって貴重なキノコとはトリュフである。人の拳骨ほどの大きさのものが数万もする。しかし今は松茸も商社が世界中からかき集めて来るので、海外での評価も上がったようだ。カナダでは松茸を日本人が高く買い取るので、近年秋になると森に採取に出かける人も多くいるという。やはり一日で数万の稼ぎになるので良いアルバイトだと聞く。
イタリアでは秋になると、露天商の八百屋でキノコが山積みされて売られることがある。しかし数種類のキノコが雑多に混じっていて、正札にはただフンギ(きのこ)と書かれているだけで、特に種類別に分けてない。松茸を指差しこれ何という名だと聞いたら「ツット、フンギ!全部キノコ」と答えた。それぞれのキノコに細かく名前が付ついている訳でもなさそうであった。松茸、椎茸のような傘の大きいもの、ポルチーニ、ハツタケの様な見慣れないキノコがどれも量り売りで値段は同じ!そのため日本人の駐在員の奥さんは、松茸だけを選んで買うと言っていた。欧米人には松茸独特のあの香りは人気が無いらしい。でもこれは40年も前の話で、最近の日本食ブームにより状況は変わっているのかもしれない。
松茸は逆に戦後すぐのほうが簡単にたべることができた。40年前の韓国でも松茸は当時安かったようで、帰国した友人が大皿に盛られた松茸を腹いっぱい食ってきたと語っていた。(千葉県八千代市勝田台、勝田陶人舎・冨岡伸一)