私の子供の頃、自宅の近くにまだ油屋という、油を専門に商う店があった。油などの専業で商売になるのか?今では不思議に思うが、むかし油は高級品でそこそこ儲かる商売だったという。ところがその油屋は石油ストーブが徐々に普及し始めると石油を販売するようになり、その後自動車の普及と共にある日突然ガソリンスタンドに衣替えをした。しかし暫くするとガソリンスタンドの建設ラッシュが訪れる・・・。そして主要道路のあちこちにガソリンスタンドが林立するようになると、比較的規模の小さなそのスタンドは店を閉め、新しく出来た幹線道路沿いに引っ越していった。近年過当競争で薄利になったガソリンスタンドは、今では斜陽産業であり廃業する店も多い。そして電気自動車が普及するとガソリンの需要はなくなる。

「うちの亭主、いったい何処で油を売ってるんだ!」この言葉は江戸時代の庶民言葉で当時は油を売り歩く、油屋という職業が存在していた。当時の油は粘着性があり、容器に満たすのに時間がかかったらしい。そこで待つ間に世間話などをして時間をつぶした・・・。油は貴重で食用のほか整髪や灯明に使うなど、いろいろ用途があったという。今では機械油などの殆んどが、クレ550などのスプレー缶が主流となり非常に便利になった。以前は細く長い口の付いたジョウロ型のブリキ容器にいれ、底の部分をペコペコ押して油を注いでいた。小学生の頃はこの容器を使い自転車に油をさしたのを思い出す。でもこの容器は今では殆んど見かけることもない。

ところで頭髪につける油といえば、あの相撲取りのつける鬢付け油の独特の臭いが気になる人は多いと思う。両国国技館前の総武線に大相撲開催中に乗ると、その匂いで相撲取りの乗車が、席に座り寝ていても分かるくらいだ。この油はハゼの木きから抽出した木蝋を主成分とするそうだが、香りは人工的に作り出すという。しかしその香りの作り方は、ある会社の企業秘密で公開されてない。いま現在では鬢付け油は東京都江戸川区の島田商店という所のみで製造されており、独占状態なので年々価格も上がっているらしい・・・。子供の頃は近所のおばさんの中には、まだ椿油を付け簡単な日本髪を結う人もいた。我が家では密かにそのおばさんを「カマシキ・ハイカラ」とあだ名した。

まだお釜でご飯を炊いていた頃、ドーナッツ型に藁で作られた釜敷という熱いお釜の下に敷く座布団があった。彼女の髪型が釜敷そっくりなので、その名がついた。

(勝田陶人舎・冨岡伸一)

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