茶飲み話・茶箪笥

 

「今日も一日、何をして過ごそうか?」などいう言葉を定年退職後の男性から聞くことがある。通常サラリーマンだと人生の活動期に、会社という組織に拘束されている。そのためにいつか会社を退職したら、自由を手に入れるぞ!と時間に制約されない自分を渇望するわけだ。でも実際に定年を迎えると最初は自由を謳歌するが、暫くすると変わり映えのしない日常に退屈するようになる。

すると何か名案はないかと本屋に出向き、「定年後の過ごし方」などという指南書をめくる。でも状況は人それぞれ千差万別なので、あまり自身の参考にはならないと気づく。そこで陶芸と同じように土いじりの好きな人達は、野菜作りなどを始めるケースもある。八千代市の工房周辺はまだ多くの田畑が広がる。そこで農家から畑を借り受け食糧難の昔を思い出して、自家菜園に取り組む高齢者も少なくない。

「伸ちゃん、茶箪笥(ちゃだんす)にサツマイモが入っているからね」の母親の声に、チェまたかと舌を打つ。戦後昭和30年頃までは日本はまだ食糧難で、小学校から帰るとオヤツにはよく芋を食わされた。当時我々が住む関東平野の赤土の台地では土地が痩せていて、そこでも丈夫に育つサツマイモがあちこちの畑で栽培されていた。今では殆んど食べることのなくなったサツマイモは、簡単に収穫できるので、個人の庭先にも植えられた。

茶箪笥と聞いて懐かしいと思う人は、団塊世代には多いかも?でも今では茶箪笥はあまり使われなくなり、この言葉を耳にすることはまれになった。昔の茶箪笥は食器棚と比べるとかなり小ぶりで、主な役目は茶器や菓子などを、蝿などから守る役目があった。何しろ当時トイレは水洗でなく、網戸もないので食べ物を放置するとすぐに蝿がたかる。

最近歳を重ね静かに茶などをいただくと、ふと昔の思い出が頭をよぎることがある。でも茶箪笥の時代と現代との圧倒的差異は世の中の進歩の早さである。それも年々加速度的にスピードを増す。情報は無数に飛び交い、社会システムは日進月歩ですぐに変わる。時代に乗らずに黙々と農作業や陶芸に打ち込むのも良いが、デジタルデバイスを駆使すれば、老後の生活も退屈することはなくなるのではないか。(202X年私は仮想空間の中に抹茶カフェをオープンします。その時はぜひ遊びに来てください。笑、笑。勝田陶人舎・冨岡伸一)

 

 

 

 

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