イナゴ

「実るほどコウベをたれる稲穂かな」。「富ちゃん、いい加減に自問したほうがいいよ」との忠告を受けた。二十歳代の頃まるで人の意見など聞かずに、ただ突っ張っていた私にある先輩が投げかけてくれた言葉だった・・・。見ると凄い数のイナゴが黄金色に実り、垂れた稲穂に群がる。子供の目にも一体どのくらい数がいるのか見当もつかない。振り回す玉網には数十匹のイナゴが入る。やっと残暑も終わり秋風を感じる季節になると、虫取り好きだった私はよく自宅近くの水田に出かけた。まだ食料不足であった当時、秋の田んぼには実った米を狙い無数のイナゴが穂にへばりついていたが、しかしそれから数年もするとこのイナゴ、突然田んぼから消えた。原因は新しく普及し始めた農薬散布によるものであると理解した。

最近アフリカ東部のソマリア、南スーダン、エチオピアなどで砂漠飛びバッタ約5000億匹が大量発生している。そしてその数を増やしながらアラビア半島を経由し、パキスタンなど風に乗って北東方向に移動中という。バッタの通過した後は草一本残らない。あわてた各国は飛行機で農薬散布をすれど、その数の多さには全く焼け石に水!国連では緊急事態宣言を発令し対策を練っている。しかしこのイナゴの大群、最終的にはコロナウイルスで混乱する中国を目指しているらしい?しかし本当にもしこのバッタどもが中国に到達したら、世界は食料不足になると心配する声も上がる。中国も大変だ!豚コレラの蔓延で豚は全滅、そこにバッタの来襲では野菜や穀物もだめ、踏んだり蹴ったりである。

日本ではいま少子化で問題になっているが、世界的には人口爆発は止まらず、増え続ける人口に食料の供給が追いつかないという。そのためこのバッタなど昆虫を食料に出来ないか?研究されている。ところでアメリカでは最近牛肉の消費が半分に落ちてきたという。原因は消費者が目覚め、飼育剤としての女性ホルモン大量使用牛肉を嫌うようになってきたらしい。屋外のグリルで大きな牛肉を焼くパーティーなど、過去のものとなりつつあると聞く。牧畜業者を救済のため、この余った牛肉をどうする?そこでアメリカファーストのトランプさんは考えた。「日本人に喰わせれば良いだろう」強引に新たな関税交渉締結、牛肉を自由化し汚染された牛肉は日本人の胃袋につまる。

「俺は絶対に安い牛丼など喰わない!」と先日友だちが語った。和牛など安全な日本の高級食材は海外の富裕層へ、代わりに我々庶民には外国からクスリ漬けの食材が届く・・・。何が起きるか分からない時代!日持ちのする安全な食材はなるべく備蓄しよう。(勝田陶人舎・冨岡伸一)

 

 

パラサイト

私は戦後生まれなので、先の大東亜戦争のことは知らない。ただ物心ついた時が昭和20年代であったので、あちこちに色濃く戦争の傷跡がまだ残っていた。記憶に残るのが上野駅界隈の情景で、特に国鉄と京成をつなぐ地下道には雨露をしのぐため、多くの浮浪者がたむろしていた。「早く歩きなさい!」とグイグイ引く母の手。小便臭さと息苦しさで噎せ返る地下道の階段を駆け上がり外に出ると「ふー!」新鮮な空気に一息つく・・・。戦後私の母親は子だくさん家計のたしにと、かつて勤めていた第一銀行上野支店に週の何日か通っていたことがある。幼児であった私は一度母親に連れられその銀行に同行。他の若い行員さんが私をかまってくれたり、今では考えられない銀行の職場環境であった。

またあの時代に逆戻りか?先日アカデミー受賞と話題になっている韓国の「パラサイト」という映画を見た。邸宅に住むリッチな企業経営者家族とスラムに住むメイド、運転手、家庭教師など使用人との確執を描いた作品である。実際に韓国では日本以上に格差社会が進行中で、一流大学を出てサムソンなど財閥企業に就職できなければ、低賃金のサービス業や肉体労働の仕事しかないという。韓国ばかりでなく最近貧困や格差社会をテーマとした映画が各国で製作されて話題になっている。イギリス映画の家族を想うとき、日本の万引き家族、韓国のパラサイトなど物語は様々だが、どれも新たな貧困が主題だ。今まで普通に生活していた中産階級がグローバル化の推進と共に。本人の努力によらず没落し下層階級に沈んでいく。

アメリカでは次期大統領選挙も始まり、民主党の候補者選びでは社会主義的思考の強いサンダース上院議員が、経済弱者や若者の支持を得てトップを走っている。ごく少数のグローバル企業トップの莫大な富蓄積に対して、多額の学費ローンを抱える若者や、住宅ローンに苦しむ中産階級は借金漬けで不満が渦巻く。そのため彼はこれを正すとアッピール!貧困の原因は日米欧ともにそうだが中国台頭による製造業の雇用喪失と外国人労働者流入による賃金低下である。アメリカファーストを掲げるトランプさんも中国を始め、海外に出て行った富をもう一度自国に戻すための政策を進める。結果中国はおろか、日本からも富がアメリカに回帰することになる。せまる貧困に立ちすくむ先進国の中産階級、前途はシネマの映像のように暗いのか?

C型肺炎対策など問題山積の中、国会では野党が相変わらずサクラの会を糾弾。安倍首相降ろしを画策する。でも安倍さん以外にどなたか首相候補がいますか?最近の政財界の人材不足には飽き飽きだ。(勝田陶人舎・冨岡伸一)

スター

「長島が来てるぞー!」の声に近所中が騒然となった。私も家を飛び出し5軒ほど先の、濃い樹木で囲まれたシモタヤ屋に駆け寄る。するとそこにはすでに黒山の人だかりである。小学生高学年であった私は人をかき分け先頭に出た。「本当だ。いるー!」見ると縁側に腰掛けた長島茂雄さんと若い女性が向かい合って雑談中。しかしなぜこんな市川の片田舎に長島が来たのか?実はこの女性は長島と同じ千葉県佐倉高校の同級生で、あだ名を黒ちゃんと言い長島のガールフレンドであったとか。六大学野球で大活躍の長島は立教大学を卒業後に憧れの巨人軍への入団が決まり、その報告のため黒ちゃん宅へ立ち寄ったらしい。テレビが各家庭へ普及し始めた当時、プロ野球同様に六大学野球もテレビ放送され立教長島はすでにお茶の間の大スターであった。

当時野球は大人気で男の子のほとんどがこのスポーツに興じていた。私立市川中学に進学した私は入学式のあと、希望どうり野球部に入部申し込みをしたが三百人の同級生数の内、すでにそこには70人もの入部希望者がいて、あまりの人数に驚き一週間で「これではとてもレギュラーになれないわ!」とすぐに退部した。しかしその野球部は半年もすると入部者は減り続け10人程度に落ち着く。今ほど娯楽や情報の無い時代、流行はなんでもはやり始めると一極集中する。それこそ全てが「猫も杓子も」なのであった。そのあと私は地学部へ入り先輩達に導かれて学校周辺の台地や貝塚を訪ね歩き、切り崩した崖の地層調査や縄文土器の破片採取などを行なっていたが、地味なその作業にもじきに飽きて退部する。

最近当時のプロ野球大スター金田、野村さんが相次いで他界した。しかしあの長島さんは体を病んでも今だに健在である。長島さんといえば集中すると他のことが頭から抜けるので有名だった。逸話として残るのは現役時代に息子の一茂を球場に連れて行いったが、試合後が一人帰宅してしまう。すると息子のいないのに気づき、あわてて連れ戻しに行いった。また世田谷で夢中でジョギング中、帰り道が分からなくなって人に聞いたとか・・・。「いけねー、歩いて帰ってきちゃった」私も自転車で出かけて徒歩での帰宅が数度あった。ぼーっと考えていると肝心なことが抜け落ちてしまうことがある。先日サッカーの本田選手が海外の空港レストランで金を払うのを忘れて、あわてて戻ったという。「日本人か?正直なあんたらは神だ!」と会計人にいわれたらしい。

日本人の嘘のつけない実直で正直な性格。グローバル化が進んでも他文化に汚染されず、後世まで続いて欲しい。(勝田陶人舎・冨岡伸一)

 

 

クルーズ

「船旅って素敵!」陸上で思い描くクルーズはとてもロマンチックで、若い頃には外国航路の船員になるのも憧れのひとつであった。ところがだ!いざ実際に乗ってみるとこれが想像とは大違いで苦しみの連続・・・。半世紀以上も前の話、私は片道2週間もかけて一万トン級の小さな客船で、アメリカまで往復した経験を持つ。6畳ほどの船倉には小さな丸窓が一つ、左右には二段ベットが並ぶ。ここに始めて集う学生4人がつめこまれ共同生活が始まった。どちらかというとあまり社交的でない私は他の人となじめずに、船酔いと閉所恐怖の連続でその船旅は終わった。私の何回かの船旅経験ではクルーズはせいぜい2,3日が限度で直ぐに飽きると思う。しかし最近の巨大な豪華客船はテーマパークが船の中に収められ、各種イベント開催や豪華な食事などで退屈することはないという。

でもいま横浜港に停泊中のダイヤモンドプリンセス号という豪華客船で、コロナウィルスが蔓延し大変なことになっている。防疫のために日々ウィルス検査が行なわれているが、そのつど新たな感染者が見つかる。これではいつになっても2千人以上いる乗客は上陸できない。特に窓の無いエコノミークラスの乗客は。長く狭い部屋に押し込められているので運動不足になる。レストランにも行けず、コンビニ弁当程度の食事では高い料金払って収監されているようなものだ。この状態は半世紀前の私の船旅よりひどいかも・・・?むかし船中での伝染病発生はクワランティーヌ(40日隔離)というルールかあった。現在ではどの位の期間隔離なのか知らないが、長期では精神的負担も増大する。

「クルーズ船の寄港は絶対に認めない!」ダイヤモンドプリンセス号の状況をみて、いま一斉に各国の港がクルーズ船の入港拒否を始めた。さまよえる豪華客船はいったいどこに寄港できるのか?新たなクルーズ船受け入れを拒否した日本の対応を韓国が批判した。しかし一方で自国の釜山港に接岸予定だった船を入港させないという声明をだす。日本のように人道的見地から一隻ぐらい受け入れるべきでしょう。今まで釜山港は観光客目当てに、クルーズ船寄港を積極的に推進してきたのに、この期に及んで全面拒否は無いですよ・・・。むかしカラオケでよく歌った。チョー・ヨンピルの「釜山港へ帰れ」曲ように、すべてのクルーズ船釜山港に集結!の記事でも出れば韓国の株も上がるはず。

中国では日本のすばやい援助物資提供など、対応のよさで日本の評価が高まっているという。最近では反日プロパガンダも消え親日に変わったのか?いや適当に利用されるてるだけですよ。(勝田陶人舎・冨岡伸一)

穴窯

遠くから聞こえる消防自動車のサイレン、「どこかで火事か?」しかし徐々にその音は大きくなりやがて入り口の前でやんだ。すると瞬時に何人かの消防士がバタバタと我々の所に駆け寄ってくる。「何やっているんですか?」との詰問にとまどっていると、陶芸の先生が応対し事情を説明した。すると「今度窯炊きをする時は事前に消防署の方に通知してくださいね」と念を押され消防隊は引き返していった。昼間の時間帯でちょうど間が悪く還元焼成の只中、登り窯の煙突や周りからはモクモクと黒い煙が大量に立ち上っていた。「これじゃあ火事と間違えるよ」一同口々に呟き苦笑い・・・。私が陶芸を習い始めた30年前、年に一度の間隔で先生指導のもと、千葉県香取市にある窯場に焼成の手助けに出かけていた。

登り窯や穴釜など薪ガマの焼成にはお金がかかる。炊き始めから9百度位までは雑木でも窯の温度は上がるが、それ以上は油分を多く含んだ赤松でないと温度上昇は不可能。そのために1240度の高温で長時間保つには、細く割った赤松の薪が大量に必要になる。赤松は硬く機械では松脂がこびりつき摩擦熱で歯がもたない、そのため人力によるナタでの薪割りで人件費が高くつく。でもその一束も10分程度で直ぐに燃え尽きるが、これを数日間続ける必要がある。数分刻みでの薪投入は不眠不休の作業のうえ、ヒビ割れやビードロの流れすぎによる癒着など失敗作も多く出る。そこで高価で売らないとペイしない。最近では公害問題もあり、これに取り組む作家は減る一方だ。

いまNHK恒例の朝ドラでは、スカーレットという陶芸を主題にした番組が放映されている。私は朝ドラなど興味がないので通常見ることは無いが、仕事に関係しているので仕方なく時々は見ることにしている。物語も進み主役の女性が信楽焼きの陶片を見つけ、そのビードロの美しさに魅了され穴窯による焼成の再現を決意する。なけなしの金で穴釜を作り試行錯誤を繰り返すが失敗の連続、薪を買うために借金まですることになる。でも6回目でやっと陶片のビードロ再現に成功・・・。私見だがこの番組に登場する穴窯は私の知り合いの甥であった穴窯名人、古谷さんの窯から比べるとかなり大きい。ビードロを沢山つけるにはもっと小さな窯で、長時間大量の薪焼成が必要なのではないかと思った。

知り合いのイギリス人陶芸家クラークさん、彼は千葉県の大多喜に登り窯を作り現在も薪窯と格闘している。数回彼を訪ねたが、大男がいつも薪割りをしていたのがとても印象的であった。写真は彼の薪窯による花器です。

(勝田陶人舎・冨岡伸一)

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