遠くから聞こえる消防自動車のサイレン、「どこかで火事か?」しかし徐々にその音は大きくなりやがて入り口の前でやんだ。すると瞬時に何人かの消防士がバタバタと我々の所に駆け寄ってくる。「何やっているんですか?」との詰問にとまどっていると、陶芸の先生が応対し事情を説明した。すると「今度窯炊きをする時は事前に消防署の方に通知してくださいね」と念を押され消防隊は引き返していった。昼間の時間帯でちょうど間が悪く還元焼成の只中、登り窯の煙突や周りからはモクモクと黒い煙が大量に立ち上っていた。「これじゃあ火事と間違えるよ」一同口々に呟き苦笑い・・・。私が陶芸を習い始めた30年前、年に一度の間隔で先生指導のもと、千葉県香取市にある窯場に焼成の手助けに出かけていた。
登り窯や穴釜など薪ガマの焼成にはお金がかかる。炊き始めから9百度位までは雑木でも窯の温度は上がるが、それ以上は油分を多く含んだ赤松でないと温度上昇は不可能。そのために1240度の高温で長時間保つには、細く割った赤松の薪が大量に必要になる。赤松は硬く機械では松脂がこびりつき摩擦熱で歯がもたない、そのため人力によるナタでの薪割りで人件費が高くつく。でもその一束も10分程度で直ぐに燃え尽きるが、これを数日間続ける必要がある。数分刻みでの薪投入は不眠不休の作業のうえ、ヒビ割れやビードロの流れすぎによる癒着など失敗作も多く出る。そこで高価で売らないとペイしない。最近では公害問題もあり、これに取り組む作家は減る一方だ。
いまNHK恒例の朝ドラでは、スカーレットという陶芸を主題にした番組が放映されている。私は朝ドラなど興味がないので通常見ることは無いが、仕事に関係しているので仕方なく時々は見ることにしている。物語も進み主役の女性が信楽焼きの陶片を見つけ、そのビードロの美しさに魅了され穴窯による焼成の再現を決意する。なけなしの金で穴釜を作り試行錯誤を繰り返すが失敗の連続、薪を買うために借金まですることになる。でも6回目でやっと陶片のビードロ再現に成功・・・。私見だがこの番組に登場する穴窯は私の知り合いの甥であった穴窯名人、古谷さんの窯から比べるとかなり大きい。ビードロを沢山つけるにはもっと小さな窯で、長時間大量の薪焼成が必要なのではないかと思った。
知り合いのイギリス人陶芸家クラークさん、彼は千葉県の大多喜に登り窯を作り現在も薪窯と格闘している。数回彼を訪ねたが、大男がいつも薪割りをしていたのがとても印象的であった。写真は彼の薪窯による花器です。
(勝田陶人舎・冨岡伸一)