「釜飯いかがですか、弁当いかがですか!」と駅のホームで到着した列車の乗客に向かって声をかける。すると車両の窓が開き、乗客が手を振り弁当売りを招く声があちこちから。ここ群馬県碓氷峠下の横川駅での停車時間はおよそ5分、いかに弁当を短時間で多くさばくかは売り子の手早さが勝負だ。横川の釜飯弁当はお釜の形を模した陶器に入っていて人気がある。そのため肩からつり下げられた木箱に弁当を20個詰めるとズッシリ重い。それを抱えながら開けられた窓から弁当を手渡し走り回る。つり銭などお金のやり取りもあり、もたもたしているとじきに発車のベルが鳴り響く。「ガッタン!」列車は買いそびれた乗客の溜息を残しゆっくりと走り出した。
実はこれ半世紀前の「峠の釜飯」というテレビドラマの1シーンである。スタジオには横川駅の簡単なセットが組まれ、役者が右往左往する。しかしテレビカメラはフォーカスするので余分な所は映らない・・・。私が大学に入るとプロダクションでバイトをするクラスメートがいた。「今日エキストラ3名募集、誰かいないか?」と雑役をかき集める手配が彼の仕事だ。テレビ撮影は撮り直しなどダラダラと長時間拘束されるが、体が楽なので時々この誘いに乗ってみた。そして後日家族とこの番組を見たが、遠くに私の姿が一瞬映る程度であった。このとき控室を持たない、チョイ役の無名俳優がいた。彼は私の横に座り、「こんなこと一生やってんのか俺・・・」とポツリ。ところがそれから30年後に、彼は名わき役として活躍する。
最近は何かと弁当が話題に上がる。このウィルス騒ぎでどこの飲食店も売り上げが激減、弁当にその活路を見出すところが多い。先日知り合いの肉屋でハンバーク弁当880円也のディレバリーをたのんだ。黒毛和牛使用ということで確かにコンビニ弁当よりは旨い。しかしウーバーイーツではないが、ディレバリーにも人権費がかかる。配達までしてこの値段で利益が出るのか気になる。でも家賃など固定費はかかり続け、何もしないで遊んでいるよりはましだと彼らはいう。この問題が収束するまでに後二年はかかるらしく、じっとしている訳にもいかないのだろう・・・。ところでいまキッチンカーを購入する人が多く製造が追いつかないらしい。これなら注文があった人の自宅前に車を止め、熱々料理を提供すればとても便利だ。
戦後チャルメラを吹き手押し車を引いた屋台のラーメン屋が、夜になると街にやってきた。でもインスタントラーメンが普及するとこの商売も消えた。ラーメン屋の「田所商店」キッチンカーを始めてください!(勝田陶人舎・冨岡伸一)