茶飲み話・金木犀
「あれ、なんだこの芳香は!」と感じ左右を仰ぐと、金木犀がオレンジ色の小さな花を結んでいる。「やはりこの季節はよいなあ」と思いを巡らし住宅地の小道を歩いた。でも以前この小道にはもっとあちこちで塀の上から金木犀が覗いていた。常緑樹の金木犀は普段は地味な姿で、その存在の気づくことなどあまり無い。唯一この時期だけが香りで、かれらの存在をアッピールしてくる。
庭木にも流行がある。戦後食糧難の頃には果樹が多く植えられた。その代表は柿木である。子供の頃の私は柿木に色々な思い出がある。柿の実が色付く秋になると、近所の家の塀からのぞく赤い実を、棒などで叩き落しおやつの足しにした。時々家主に見つかることもあり、どなられては逃げ帰る。しかし今では手に届く枝になる柿の実を採る子もほとんど無く、熟して放置され道路を汚す。
食料不足も過去の思い出となり戦後世代が所帯を持つようになると、庭木として流行したのがヒノキ科のカイズカイブキである。この頃になると住宅も引き戸の玄関を入る日本家屋から、ドアーを開く西洋風住宅に変わり、モダンな樹形のカイズカイブキが大流行する。でもこの木は若木のうちはよいが成長が早く、10年も経つと巨木になるので徐々に飽きられて、現在では見かけることも稀になった。
私が住む市川の旧市街も最近では昭和の古屋が取り壊され、その広めの跡地には何軒かの今風のボックス型ハウスの建て替えが進む。すると狭い庭はコンクリで固められ駐車場になり、庭木が植えられることなどほとんど無い。今の若い所帯は夫婦共稼ぎなので、めんどうな庭草の手入れなどしない。そこで街路はどこも一様に同じで、家の唯一の個性表現は置かれている各色の車ぐらいだ。
時代はドンドン変わり今や大工などもなり手がいない。すると当然熟練の技もいらない無味乾燥な箱型の家になる。車が電気自動車に代わるように家も積み木工法のツーバイフォーからより変化して、ロボットが自動で作る立体コピー作りが検討されている。これだと土台からチューブでセメントを積んでいき、2,3日で原型が完成する・・・。(写真・7年前に製作した茶碗。そろそろ雁が戻ってくる季節だが。勝田陶人舎・冨岡伸一)