われわれ戦後生まれが小学生低学年の頃、電話はまだ一般家庭には普及していなかった。一部の商店や裕福な家庭に限定されていたのだ。そこで電話にあこがれを抱いた子供たちの間に、糸電話というオモチャを作るの事が流行した。ボール紙を丸め、その片方にパラフィン紙を張り中央に穴をあけ、糸で二つを繋ぐという簡単な作りである。しかし何度か試したが実際に糸を伝わり、相手の声が聞こえたという記憶はない。大きく声を張り上げると直接、声が伝わってしまう。
しかし中学生になると電話はテレビと共に急速に普及し、どこの家庭にも浸透していった。そして色気づいた男の子が、知り合ったばかりのガールフレンド家へデートに誘う電話をかけたのもこの頃である。ところがもし親が出たらどうしようかとハラハラドキドキの一瞬であった。時を同じくして公衆電話ボックスがあちこちの街角に出現し、順番を待つ人の列ができたのもこの頃である。
それから私が40代になると劇的な変化が起こった。肩にかけるほどの大きな携帯電話がポケットサイズになり、急速に普及し始めたのだ。これでいつどこでも個々人が瞬時に連絡をとれるようになる。そして小さかった液晶の表示画面が徐々に大きくなり、スマートフォンの登場に発展していった。おそらくスマホは今世紀最大の革新的技術の一つではないかと思う。そしてこのスマホは日々変化をとげ、今ではお財布や英語などの翻訳機にもなっている。
最近ではファミレスなどでもオーダーはスマホでするようになり、スマホが無いとランチすら出来ないようになってきた。そして人手不足から飲食店ではタッチパネルの導入も進んでいる。定年退職で自宅にこもり、女房の手料理に満足していると、もし一人になった時に大変な事になる。週に一度は一人で買い物に行き、外で飯を食わないと時代から取り残される。以前お婆さんが電車の券売機の前で、立ちすくんでいたのを助けた記憶があるがあの光景が重なる。
「糸電話からスマホへ」おそらく有史以来われわれの世代ほど、世の中の劇的な変化にさらされている世代は無いと思う。そしてその変化はこれから加速度的に進んでいく。定年退職後のノンビリ生活も良いが、世の中との係わりをなくすとヤバイことになるとの実感がわく。(テレビから離れ街に出よう。勝田陶人舎・冨岡伸一)
