ザル蕎麦

「うそでしょう!こんなのってありか?」思わず心の中で呟いた。ザルで頼んだ蕎麦の量が異常に少ない。器に引かれたセイロが一皮並びの蕎麦から透けて見える。話には聞いていたが、これほどだとは思わなかった。もう半世紀以上も前のことになるが、家業の納品の手伝いで日本橋三越に行った帰り道。小腹の空いた私に母親が「たまには蕎麦でも食べて帰る?」との提案があり、神田駅近くの「砂場」という名の蕎麦屋に連れて行かれたことがあった。古風な店の入り口の暖簾を分けて中に入ると、昼時をとっくに過ぎているのに店は客で混んでいた。「ザル蕎麦が旨い」というのでオーダーして待っていると、やがてセイロに盛られた蕎麦が目の前に置かれた。

「確かにこの量なら話ネタになるわ」以前からこの店の蕎麦の量のことが自宅で話題になっていた。でも実際に見ると苦笑いしかない。母親に促されて箸をつけるとたった軽く三口で終わり、まったく食べた気がしなかった。それでも普通のざる蕎麦の倍近い金額を払い外にでると「どう美味しかったでしょう」と聞かれたが、普通の蕎麦より細く透明感があり見た目は良かったが、しょせん蕎麦だ!たいして変わりはないと思った・・・。蕎麦は好きなのでよく食べるが15年ほど前、工房の近くの昼時に行く手打ち蕎麦屋の店主が「蕎麦打ちを教える」というので習うことにした。休憩時間の2時過ぎに店に行くと私の他にも三人の生徒がいた。

じっと作業工程をみていると、最初に蕎麦粉と小麦粉の分量を量り混ぜる。それからゆっくりと水を足し揉んでいく。次に板に広げ延ばしてから細く切る。「これなら簡単ですぐに自分でも出来そうだ!」思いついたら、そく実行に移すのが性分である。翌週ホームセンターのジョイフルホンダ印西店まで出向き、蕎麦打ち道具一式を数万円で購入した。日曜の夕方さっそくメモを見ながら復習すると「よし、これでうまくいった」手順どうり作業を終え、沸騰した大鍋に蕎麦を泳がせ1分で引き上げた。ところが蕎麦がブツブツ切れていて繋がっていない。「どうしてだ!」でも原因は不明。そのご数回繰り返すも結果は同じで、後日に蕎麦屋の店主に尋ねると蕎麦粉が悪いのではとのことだった。

蕎麦打ちの修行もそう簡単ではない。そのご蕎麦道具一式は納戸の奥にしまわれたままである。写真は我が家のザル蕎麦一式で自作です。

(勝田陶人舎・冨岡伸一)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

© 2024 冨岡陶芸工房 勝田陶人舎