カスタネット

昨年テレビを見ていたら、八歳の女の子が大人達のバンドに混ざり上手にドラムを叩いていて、ビックリすることがあった。今は英才教育で幼児からその道を極めた物凄い子供がいる。いっぽうで私が小学校低学年の頃を振り返ると、音楽という教科は極めて単純であった。担任の先生が弾く古びたオルガンに合わせて、皆で「春の小川」など小学生唱歌を歌うだけである。だからとりあえず歌が上手に歌えればよい。私は他の子より高音が出たので音楽の点数は悪くなかったと憶える・・・。戦後は管弦楽器など気のきいたものは学校にも全くない。あるのはカスタネット、トライアングル、タンバリンなど、ごく簡単な打楽器だけだった。

でも小学4年生になるとハーモニカが、そして高学年になるとプラスッチク製のリコーダーが登場する。私はハーモニカは得意であったがリコーダーは難しい!指の押さえが悪く音が抜けて上手に吹くことができなかった。そのほか当時の楽器としては木琴がある。ピアノの代用品として叩かれていた木琴は何故か女の子に人気があった・・・。いつの世も社会格差は常に存在する。いや当時のほうが貧富の差は大きかったのかもしれない!食うや食わずでやっと30円のカスタネットの子もいれば、ピアノやバイオリンを習う金持ちの子弟もいたのだ。ピアノは我々の世代では高額なので夢の楽器であった。そのため我が国が高度成長期に入り、その後一億総中流で皆が豊かになると、好き嫌いに関わらず子供達にピアノを習わせることがブームとなる。

ところで最近デジタル・デバイドという気になる言葉をよく耳にする。これは急速にデジタル化が進む将来、それを上手く使いこなす人とそうでない人とで、デジタルデバイド(情報格差)がつくという意味の用語だ。これから人々は仕事がデジタルかどうかで極端な収入差がつくらしい。そしてより怖いのは、この現象が新たに社会階層を固定化し、いちど底辺に落ちると子々孫々まで逆転は不可能だという・・・。現在金銭的に余裕のある家庭の子弟はデジタル化の波に乗れるが、パソコンも買えない貧困層もいる。親が日々の生活に追われ、放任された子供達は知らぬ間にデジタル弱者に・・・。今後パソコンを叩きデジタルに強い人だけが豊かになるとしたら、また戦後のあのピアノとカスタネットの格差社会に逆戻り!

コロナの蔓延で大変なアメリカでは、感染者の多くがホームレスや黒人層など、自宅でリモートワーク出来ないデジタル弱者であるという。失業して簡単な職種を人混みで探し回ると、ウィルスがニッコリ微笑み抱きついてくる。

(勝田陶人舎・冨岡伸一)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

© 2024 冨岡陶芸工房 勝田陶人舎