お辞儀

(三尺下がって師の影を踏まず)という諺があるが、三尺は約1メートル位である。ではもっと(三歩下がって師の影を踏まず)はどうだろう?これならちょうど2メートルになるのではないか。弟子は師に礼をつくすため少し離れて後ろを歩く。昔から続いてきたこのような習慣は、戦後しばらくはまだ一般的であったと思う。私の両親も外出時に、母はいつも父の少し後ろを歩き、話しながらの夫婦並列歩行など見たことがなかった。当時たまに男女が楽しそうに密着歩行していても人目が気になり、誰かに遭遇するとサッと離れた。ところが私が高校に入学すると、先に卒業し百貨店に就職した近所の先輩が、ニコニコしながら堂々と彼女を連れて腕を組み、自慢げに歩くのに出会った。「アメリカ人の真似ですか!」とこの時は何かカルチャーショックを感じた。

しかしそれから数年もするとこの男女密着歩行はあっという間に、若者達のあいだに浸透していったのだ。日本人は伝統的に人との密な接触を避ける民族であると思う。特に挨拶では他の民族との違いが顕著である。離れてお辞儀をし握手やハグなどは無し。ましてホッペにするチークキスなど言語道断!あんなばつの悪い行為は絶対に嫌う!チークキスは慣れないとそのタイミングがすごく難しい。気後れするとギコチなく絵にならない。それに日本人は会話中にボディータッチなども殆んどしない。むかしイタリアで出会った靴学校の初老先生リナーテ氏はさりげなく女性にタッチをしていたが、あんなこと今の俺がやったら「触り魔のエロジジイ」と罵倒される。

でも人との密着を避けようとする日本人のこの習慣、今やソーシャルディスタンスとして、世界中から注目されトレンドになっている。逆に気の毒なのがボディータッチの好きなイタリア、スペインなどのラテン系の人々である。ベタベタと密着するから多くの人がコロナに感染して死亡している。でも彼らが日本人をまねて距離をおき、お辞儀をするようになったら、これまた不恰好で不自然だ。(ウィズ・コロナ)コロナと共存する生活が長く続くようだと、それぞれの民族で長く培った慣習や風俗も変わっていくのかもしれない・・・。「日本人は日常、なぜマスクなどするんだ」とアメリカ人はいぶかっていた。もしアメリカでマスクして街を歩いたら、強盗に間違えられて射殺されることもあるぞと・・・。

そのアメリカ人でも命は惜しいのか?いま急速にマスクの着用が根付きはじめている。挨拶に距離をとることや、日常のマスク着用、頻繁な手洗いなど几帳面な日本人の習慣が注目されるのも恐ろしい時代だ。(勝田陶人舎・冨岡伸一)

 

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