ペット犬

「私は犬が大嫌いだ!」と言うと「なんで?あんなに可愛いのに」という人が殆んどになった。それは我々が子供のころ、まだ犬が放し飼いで飼われていた時代の、外で駆けずり回る男の子と犬の確執をご存知ないからである。当時家庭で飼われていた犬の大半は、日本人と共に古来から生活してきた秋田犬や柴犬などが混ざった雑種で、性格も相対的に荒かった。まだ今のようなプードルやミニダックスなどの可愛らしい欧米のペット犬種は殆んど見かけない。普通の一般家庭で飼われていたこれ等の雑種犬は、しつけも悪く番犬なので人を見ると直ぐに吼え威嚇する。それらが野良犬とも群れて街路をうろつく。そこで見知らぬ街に行き、彼らのテリトリーに入ると吼えられ、追われることになる。

「犬殺しが来たぞー!」と近所に声をかけると、一斉に各家庭ではそれまで放し飼いにされていた飼い犬を慌てて鎖に繋ぐ。戦後もしばらくして世の中が落ち着いてくると、行政も動き出しこのような危険な犬の放し飼いを取り締まるようになる。たびたび保健所から犬殺しと呼ばれた犬の捕獲員がやって来て、うろつく犬を片っ端から捕まえていく、放し飼いなら飼い犬も野良犬も区別はしない。たまたま家を留守にして自分の飼い犬が捕獲員に捕まると、罰金を払い保健所まで身請けに行く。早く行かないと2週間ぐらいで殺処分された。犬を飼っていた人たちは捕獲員を嫌ったが、私は犬との良い印象など全く無いので、捕獲員のおじさんに嫌いな犬の居場所を教える。

当時犬の名前で多かったのがタロウやジロウ、そしてポチだ。「伸ちゃん、うちのタロウ見なかった!」血相を変えてタロウを探し回る近所のオバサンに聞かれる。せっかく捕獲員に捕まえてもらったのに、「犬殺しに捕まった」などと言える分けない。でもオバサンは近所じゅうに聞いて回り、保健所にとんで行った。「ちきしょう、せっかく捕まえてもらったのに」数日するとまたあのタロウが街をうろつき回る。よく昔の古い子供向けアニメで犬に追われ、電信柱や木に駆け上るシーンが出てくる。でもあんなことは日常的にあった話で特別なことではない。ドロボウも減り家の作りが強固になると番犬を飼う必要がなくなる。すると犬の役目は気の強い番犬から、おとなしいペット犬に代わり家の中で飼われるようになった。

写真は浅草助六の犬と虎で90年程前のミニチュア、父親のコレクションで1円玉と五円玉の上に乗る。(勝田陶人舎・冨岡伸一)

 

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