「羊を描いて。羊を描いてよ!」とねだる王子様と作者との会話で始まるこのサン・ティグジュぺリの「星の王子様」という物語りは、余りにも有名なのでほとんどの方はご存知だと思う。この本は中学時代に友だちに借りて読んだのが最初だが、その後この本は大人の読む童話として、一時期ブームになったことがある。私は純な心を持つ王子の感受性を描いたその物語の内容よりも、挿絵に描かれた羊という家畜に深く引かれた。私は小学生時代に羊飼いという仕事にあこがれていてたことがある。勉強嫌いであったそのころ、羊の番をしているだけで楽に喰っていけそうなその職業が私には理想的に思えたのだ。
でもなぜか日本には牛はいるが羊がほとんどいない。不思議に思ったがその原因は分からなかった。国内で羊の姿を見られるのは北海道だけであろうか。高温多湿の日本の夏の季節が、分厚い衣を着た羊にはたぶん馴染まないのであろう。羊はなんと言ってもモンゴルなどの草原がお気に入りらしく、砂漠に近い乾燥地でもたくましく生きていく。モンゴル平原は小麦が育たないので、人々はマトンを主食に生活する。半世紀も前に一時北海道の羊肉をジンギスカン料理として焼いて食べることが流行ったが、結局は肉の匂いが嫌われ日本ではマトンは定着しなかった。私もマトンを食べた記憶は数度しかない。
日本の風土は温暖で雨が多く、植物は良く育つ。羊など飼わなくても田んぼで稲を植えれば、少ない土地でも飯が食える。でも除草や消毒、刈り取りと非常に苦労が多い。今は農機具の使用で多少楽になったが。日本人の勤勉さは、この稲作の歴史にあるのではないだろうか。そしてそれはすでにDNAにしっかり刻み込まれていて、怠けることは罪悪だと多くの人が無意識に感じている。一方で羊飼いという仕事は楽そうだ。羊は放しておけば自分で草を食べ勝手に成長する。昼間は木陰で好きな本などを読み、夜は星の観察などをしてればいい。狼の監視は犬の仕事。犬は従順で怠けたりしないし、口笛一つでどのようにでも動く。
今の若い人は大変だ。スマホなど通信手段の普及により、どこいても上司の指令が口笛のように飛ぶ。怠けてなどいられない。このストレス社会の現代、時には仕事を辞めて羊飼いになる夢でも見たらよいのでは。(勝田陶人舎・冨岡伸一)