ラッキョウ
むかし街の酒屋の多くは乾物屋も兼ねていた。店頭の正面にはガラスケースの中に乾物が、壁際には酒類を並べて販売していた。また店の一角には粗末なテーブルが置かれ、立ち飲み出来る空間がある。そして夕方になると仕事帰りのサラリーマンや職人が、ここに集まってコップ酒をあおった。酒を原価で飲めるので居酒屋で飲むより安上り、毎日晩酌する独り身には喜ばれた。当時日本酒は小瓶がなく一升瓶や樽酒からの量り売りであった。四角いマスに酒を満たし量ってからコップにあけるとこぼれる事もある。そこでしだいにコップをマスに置きこぼれる酒を受ける、今でも居酒屋にいくとやっている「ヘンテコリン」あの飲み方になっていった。
また酒屋の立ち飲みは安く酔いの下地を作るには都合が良い。私も勤め始めた頃、「今日は俺のおごりで銀座のバーに連れってやる!」と先輩に声をかけられて喜んでついて行くと、まず連れて行かれたのが、新橋のガード下にあった立ち飲み屋だあった。「ここで好きなだけ酒を飲め!その代わりバーに行ったらあまり飲むなよ」とねんをおされた。確かにサラリーマンにはこの飲み方は合理的であると思った。子どものころ夕方酒屋に使いに出ると、よくこの立ち飲みの光景に出くわす!おじさんたちがワイワイガヤガヤ、コップ酒をあおりご機嫌だ!「酒なんか飲んで何が楽しいいんだよ!」遠巻きに眺めていたが、良く見ると俺の嫌いなラッキョウをチビチビかじってる。その酒屋ではコップ酒を頼むとサービスでラッキョウを2,3粒小皿に入れて出していた。
「だってラッキョウが転がるんですもん!」ずっと以前テレビのコマーシャルで放映されて、このフレーズが評判になったことがある!何を見てもおかしい女子高生の感情を実に素直に表現していた!ラッキョウを箸で掴んだがスベッテ転がった。それだけでケラケラ笑える年頃がある!我が娘もそうだった。下らない事でよく笑っていたが、働き盛りで頑張る親父はそれを冷ややかな目で見ていた。娘にしてみれば「いつも難しい顔して馬鹿みたい!」と当然そう思っていたに違いない。「若いときのパパはとても怖かった」と最近娘が口にしていたが確かにそうだったかもしれない。立ち飲みのコップ酒もラッキョウもどうでもよいが、なにかこの相性ピッタリはまると思いませんか?
やっと丸くなって来たと思ったらもうこの歳だ!丸くなったというより怒る元気がなくなったという方が正解かも。
(千葉県八千代市勝田台、勝田陶人舎・冨岡伸一)