福神漬け

そろそろお盆が近づいてきた。富岡家の菩提寺は東京文京区の向が丘にあるのでお盆は毎年7月に行う。お盆になると提灯を灯し仏壇の前にホウズキや野菜を備える。昔は茄子には割り箸で足をつけたりして、馬に見立てたりすることもあった・・・。これは明治生まれで下町に住んでいた父親に聞いた話だが、維新前後に江戸の町ではお盆になると、どの家でも仏壇にいろいろな野菜を備えたと言う。お盆が終わると備えた野菜が干からびて食べられなくなる。そのクズの野菜を誰かが回収して漬物にして販売したところ大そうな売れ行きで、仕入れが只なので一儲けをしたらしい。これが福神漬けの始まりだと話していたが、今の福神漬けの酒悦とは関係ないと思う。

福神漬けはなんと言ってもカレーライスに良くあう。実際にカレーライス以外では福神漬けを食べた記憶がほとんどない。福神漬けとカレーライスのコラボを最初に始めたのは大正時代で、日本郵船の欧州航路客船の一等客室にカレーと一緒に出されたのが始まりらしい。また今のカレーライスの日本風の食べ方は明治時代に、大日本帝国海軍の洋上での偏った栄養状態改善のために考えられたそうだ。いずれにしても新鮮な食材など提供できない船上での食事に、うってつけの組み合わせであったのであろう。

「この真ん中が割れてショウタンの様な形をした、ヘンテコリンな物はいったいなんだろう?」福神漬けを食べる時に、箸でつかんで繁々と眺めていたことがある。実はこれ調べて見たらナタ豆だという。「ナタ豆って食べられるのか?」ふだん食材としては全く馴染が無いので分からなかった。漢方でも使い健康には良いらしい。福神漬けは大根、茄子、うり、レンコン、カブ、しそ、ナタ豆の7種類の野菜から作られており、酒悦の創業者の住んでいた上野の七福神にあやかって、福神漬けと命名したようである。明治初期その創業者がミリンと醤油をベースにこの漬物を考案したというが、味付けには試行錯誤で10年の長い歳月を要したと言う。あの簡単そうな福神漬けにも奥深いストーリーがあったのか。

福神漬けはやはり乾物屋であつかう食品の一つで、身近であったが我が家では子供の頃に食べた記憶があまりない。

(千葉県八千代市勝田台、勝田陶人舎・冨岡伸一)

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