ピッチョウネ

小学生の頃。学校の課外授業の一つで東京見物というバスツアーが企画されたことがある。(烏山の明治牛乳の工場、愛宕山のNHKの放送センター、国会議事堂、それに有楽町にあった朝日新聞社など)新聞社では高速で回る新聞を印刷する輪転機に目を奪われたが、私の関心は当時まだ実際に使っていた伝書鳩による通信手段であった。電話や無線設備など無い僻地取材では新聞記者は鳩をケージにいれ携帯し、書いた記事を鳩の足に括り付け、有楽町の本社まで送っていたのだ。そのために社屋の屋上には大きな鳩小屋が設置されていた・・・。「鳩はなんて利口なんだ!直接飼って観察して見たい」思いは募っていった。

そしてその頃「食用鳩を飼って、大きく育てると高く買ってもらえるらしい?」という噂が伝わってくる。「鳩って食用になるのか?」でも食用鳩を食べる習慣は日本ではほとんど定着せず、この話はいつの間にか消えていった。しかし実際に鳩は世界中の人々に食べられていて、食べない国の方がずっと少ない。伝書鳩も食用鳩も種としては、ほとんど変わらないと言う。特に鳩をよく食べる中国人が日本に来て神社に群がる鳩を見ると、どうして日本人は捕まえて食べないのか?不思議がるというのだ。そういえば最近よく行く浅草寺の境内で、鳩を本気で追いかけまわす中国人の子供を目にすることもある。彼らは食べるために捕まえようとしていたかも・・・。

「へーえ、こんな所にレストランがあるのか?」かつてイタリア在住時、ペルージアの郊外に趣のあるレストランがあるとの情報を聞き、友達と行って見ることにした。ブドウ畑の続く田舎道を車でいくと、大きなオリーブの木に囲まれた林の中に、ひっそりとそのレストランはあった。外から見るとまるで田舎家だが中に入ると、高級レストランの設えだ。客がまばらだったので、促されて奥の窓側のテーブルに着席した。そしてメニューを見ながらボーイにこの店のお勧めを聞くと、鳩のグリルだという。お勧めを頼み待っていると丸ごと一羽のローストがでてきた。チキンよりずっと小ぶりなので、一人前にはちょうどよい。

海外のレストランでボーイに「何がお勧めですか?」と言わずに「何が美味しいですか?」と聞くと「全部だ、当店は不味い物は提供しません!」と一蹴される事があった。鳩は英語でピジョン、イタリア語ではピッチョウネという。

(千葉県八千代市勝田台、勝田陶人舎・冨岡伸一)

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