モヤシ

「えー、モヤシがたったの1円か!」先日テレビを見ていたら、商品を奪い合う大勢の客で混むスーパーマーケットの映像が飛び込んでくる。この店では他にピーマンが1個十円、鳥の胸肉、豚の細切れ、牛肉などが異常に安い値段で特売されていた。それを人々が我先にと大量に買い込んでいる。ある客は「これで1ヶ月分の買い物をすましたから、もう今月は買い物しない!」などと発言した。「お客様が喜んでくれれば!」と店長も平然とインタビューに答える。「嘘だろう?」こんな価格では生産者は利益どころか労賃もでない。私が農家ならバカバカしくて廃業する。客観的に見て、客も店側の双方にも良さそうなこの価格破壊の安売り、実はとんでもないことなのだ!

いま日本では一般の人々の消費購買力がどんどん落ちている。普通の定価で商品を購入する健全な消費者が余りいなくなってきたのだ。そしてその典型なのが百貨店での買い物客の減少である。だれも美しいバラの包装紙などのこだわりもない。わざわざ歳暮でビールを送るのに百貨店に出向くことも減ってきた・・・。でも私はこの現象が非常に気になる。一軒の店で激安販売を行なうとその周辺の消費者を根こそぎ奪い取り、人々は価格破壊に慣れてまともな値段での買い物をしなくなる。いまはとりあえず人口の多い団塊の世代が退職し、労働市場から抜け出ているので失業率は低く完全雇用の状態だ。でも多くの仕事が薄利になり激務の割には賃金が上がらない異常な状態が続く。

若い人は30年前のバブルの時代など全く知らない。当時はインフレで銀行の定期預金に7,8パーセントの金利が付いた。ても土地の値段や物価上昇も激しく、先高感を見越し競って高い買い物をした。ブランド物のバックや靴も飛ぶように売れたので、デザイナーであった私も簡単に高給が稼せげた。お金が激しく回転して皆が潤い、数千万もするゴルフ会員権がとぶように売れた。しかしいま国会では金融庁からの提言で、「老後年金支給額だけでは足りないので、各家庭2千万円貯蓄する必要がある」という当然の発表をしたことが世間では問題となっている。でもデフレの今実際に皆が一斉に2千万貯めるための節約を始めたら、お金が消費に向かわず、ますます不景気になり結果として激安店に走る。

生まれてからずっとインフレ状態で育った私は、バブル崩壊の前までは経済現象としてデフレが本当に起きるのかが、想像もできなかった。でもデフレ状態が長く続く昨今、日本経済が再びインフレになるイメージなど殆んどわかない。

(勝田陶人舎・冨岡伸一)

 

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