私の住む市川市には、八幡という地名の由来でもある葛飾八幡宮という神社がある。毎年この神社では9月15日から一週間農具市が開催されている。でも最近では屋台の出店も少なく閑散としていて、昔の面影はまるで無い。当時はその名の通り、農機具などを商う道具屋などが軒を連ね、鍬や鋤、ノコギリなどを販売していた。まだホームセンターなど全く無い時代、近郊の農家では日常使う道具類をこの市で調達した。しかし徐々に田畑は住宅地に変わり、ほとんどの農家が離農して全く需要がなくなった。また戦後しばらくは古着や各種中古品なども売っていて、別名「ボロ市」など呼ばれていたが、日本の経済復興と共にセコンドハンドの文化も消えていく・・・。でも最近ではメルカリなどで中古品を安く買って済ます人たちも増え、貧しい時代に逆戻りの感もある。
「よってらっしゃい。見てらっしゃい!」当時このボロ市での人気はなんと言っても、ガマの油のようないい加減な薬を、その口上だけで売りつけるテキヤである。彼らの口上は聞いているだけで面白いので私は好きだった。よく行なわれていたトリックは、自分の腕をナイフで傷つけ吹き出す血を、あっという間に軟膏を塗りつけ止血するパフォーマンスである。でもこれには少々のカラクリがあった。ナイフで腕を傷をつける前に、口に含んだ水で霧を拭く。すると少量の血でも水と混ざり流れ出る鮮血に見えるのだ。みなが驚いて注目しているところで、小さ缶に入った軟膏を50円で売ると言う。何人かのサクラもいるようで、彼らが飛んでいくと、あとは我先にと客が殺到した。私も一度買ってみたが、メンソレのようなものだったので、今考えるとたぶん普通のワセリンだったと思う。
この市では綿アメやお好み焼きのほかに、食べ物ではフライが人気だった。焼き鳥のような小さな串に刺した揚げ物が、一本十円それもルーレットのような円盤を回すと本数が書いてあり、針の指す位置で本数が決まる。(ほとんどが一本)パン粉をつけたフライなので中身が何かは全くの謎。でも食べてみると結構旨い。たぶんこの頃は巷で余り食べなかった、牛か豚の内臓であったと思う。捨てるような内臓をどこからか調達し、切り刻んでフライにすればごまかせる。その看板にはフライとだけ書いてあるので、毎年農具市のたびに何年か食べ続けたが中身は何か?最後まで分からずじまいだった。昔の子供達はオヤツは10円を握り締め店に行き、好きな食べ物を買う。しかし現在はコンビニでも幼児が一人で買い物する姿など、見たことも無い。
時代の変化と共に、買い物での支払い方法が複雑になると困る。現金払いが単純明快で一番便利だと思うのだが、時代がそれを許さない。
(勝田陶人舎・冨岡伸一)