松葉ガニ

むかし私が小学生低学年の頃までは、自宅に風呂がなかったので銭湯に通った。そのために銭湯の思い出ならいろいろある。当時銭湯へ行き風呂場にはいると倶梨伽羅紋々(くりからとは不動明王の化身、もんもんとは刺青)を背中に彫った大人を結構見かけた。その頃は渡世人だけでなく職人なども、刺青を入れていた人もいて、別に気にもとめずにいた。最近では温泉など公共の場での刺青入浴が規制されているが、風呂に浸かりながら玉を握った竜や弁天様の刺青の入った、身体を眺めるのも悪くはなかった・・・。しかし近年同じ刺青でも日本の伝統的な刺青ではなく、アメリカなど海外で流行中のタトゥーは美しくない。この刺青はファッション感覚で入れられることが多く、一つ入れると癖になって徐々にその数が増えていき、様々な図柄が混在して統一感がない。

「ええ、どうしたの?この人の顔」と思ったことがある。以前工房の水道工事に呼んだ職人のオジイさんの顔がとてもユニーク。たぶん若いときに相当な遊び人であったのだろうか?半そでのダボシャツから透かし見える刺青はまだ良いとしても、なんと顔の眉毛にも刺青を入れていたのだ。眉毛が薄く気になって濃く見えるように刺青を入れたのだと思うが、歳をとり眉毛が白髪になると刺青だけが黒く目立ち、なんとも違和感のある顔になっていた。若い時は年をとることなど想定しないので、一時のヤンチャな行動がおかしなことになる。以前若い日本女性でも目を大きく見せるために、瞼の上に細く刺青を入れるのが流行ったことがあるが、これでさえ老婆になったときに違和感があるかもしれないと思う。

30年も前のこと、神戸の靴メイカーが有馬温泉で行なった忘年会に参加したことがある。兵庫県の日本海側でとれる松葉蟹が喰えるというで期待していた。日中仕事をし夕方バスでホテルに着くと、宴会前にさっそく大浴場に向かったのだが、浴場の戸を開けてビックリこいた!そこにはなんと全員が刺青を入れている恐持ての男達ばかりなのだ。背中に彫った刺青はまだ良いとしても、胸の中央には10センチ位の丸いこの組のマークが入れられている。私は恐る恐る空いている洗い場に座って体を流し早々と引き上げたが、聞くとこの日は地元山口組関係者の納会が隣の大広間で開かれているということであった・・・。でもこの男達の刺青は関東で見慣れている紺色の墨でなく、グリーンと赤色のコントラストで何か不気味に感じた。

同じズワイガニである松葉ガニと越前ガニの差は産地の違いで、京都府の日本海側から鳥取までを松葉ガニ、福井県(越前)で水揚げされるものを越前ガニとよぶそうだ。(写真の蟹は小さな箸置きです。勝田陶人舎・冨岡伸一)

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

© 2024 冨岡陶芸工房 勝田陶人舎