茶飲み話・枯れススキ

「貧しさに負けたー。いえ世間に負けたー。この街も追われた、いっそ綺麗に死のうか・・・」。この歌いだしで始まる1974年に大ヒットした「昭和枯れススキ」という男女のデュエット曲。この曲ほど人生の貧困、迫害、徒労など不幸連鎖を歌い上げた曲もあまりないと思う。日本が年々豊かになる高度成長期の真っ只中に、なぜこんなシミッタレ曲が大ヒットし140万枚のレコード売り上げになったのか?理解に苦しむが、日本人はどこか貧乏をロマンとして、美化する心情があるらしい。

実は私もこの曲と同様に、ススキという地味な野草が好きだ。そこで自宅や工房の庭にはススキをプランタで植え、日々風にそよぐ姿を眺めては季節の移ろいを感じ、喫茶の友としている。特に銀色の穂が芽吹く十五夜の頃のススキは、この野草が美しく輝きを放つ一時であると思う。そして晩秋を迎えると全てのエネルギーが燃え尽き、枯れススキとなる。確かにススキは、はかない「人の世」を映す鏡であるとも言えそうだ。

最近の日本は何か元気がない。経済成長もずっと停滞し、賃金も殆んど上がらない状態が続く。このままだと繁栄から取り残されて、枯れススキのような没落国家へと移行する。今日のようにグローバル化が進み国境が除かれ、世界が一律にフラット化されると、先進国と後進国の賃金格差は縮小に向かう。豊かな時代に貧乏を想像するのは「ロマン」だが、貧困生活での糧の心配は、単なる「怒り」でしかない。

「デジタルにのらずー、いえペイパルが使えずー。年金も下ろせない。いっそ餓え死にしようか・・・」。極端だがこれは、高齢者でも日々あらたなテクノロジーを学習しないでいると、デジタルに迫害される「令和枯れススキ」。もうどせ身体も枯れススキなのだから、すなおに過去の時代と共に流されれば好いのに!との声も聞こえるが、死ぬまで努力し続けることに人生の意味があるとも思う。

最近発表された統計によると、30年前に世界3位だった日本人の賃金は20位に下落し、韓国の21位と並んだ。でもここからさらに下落していく傾向にある。すると若い人は今とは逆に、賃金が上がるアジア諸国の会社の仕事を請け負うこともありえる。ススキが枯れていくのをただ傍観していると、若者達もヤバイことになる。

(オリンピックは終了だが、コロナ感染は勢いを増す・・・。植木鉢を自ら製作しススキを植えるとこんな感じに。勝田陶人舎・冨岡伸一)

 

 

 

 

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