エンゼルパイ

「草木も眠る丑三つ時」むかし幽霊が出るといわれたこの時刻、今で言うと午前2時から2時半の間だという。私はだいたい毎朝この時刻に起床するが、たしかに私の住む街でも静かで物音一つしない。先日庭のほうから「パタン!」と音がしてビックリしたが、窓越しに庭を見ると薄闇から猫がこちらを窺っていた。あさ目覚めるとまずはパソコンのスイッチを入れお湯を沸かす。そしてテーブルの前に陣取り「さて今日は何をブログに書こうか?」などと熱いお茶を飲みながら考える。菓子鉢に目を移すと自然に手が伸び「これだから太るんだよなあ!」と思いつつ昨日コンビニで買った森永のエンゼルパイの包みを破った。

70歳も過ぎると人から強制される仕事も無いし、家族のために働く必要も希薄になる。ひたすら自ら作り上げた課題に取り組む日々である。「私は何を食べ、どう生きて来たのか?そしてこれからも何を食べどう命を繋ぐのか、自分なりの経験や考えを陶芸を通して記述してみたいという、願望からこのブログの連載は始まった」でもこの課題すら自分にとって本当に必然性があるのか、実際のところは分からない。時代のアクセルは踏み込まれ3年ひと昔、急速に変わっていく。過去の記憶や情報はどんどん削除され、まして半世紀以前の事など全くの絵空事で、今の人々には現実感などまるでない。そのため敢えて過去を切り取り、現代と比較してみるのも面白いと思う。

「さっき美容院のシンちゃんから、怖い話を聞いたわよ!」と私が帰るなり女房が開口一番語る「せんじつ彼の美容院の近くで独居老人の孤独死があった。ところが暑い夏の盛り、遺体は2週間経過しても綺麗で全く腐敗してない!この人3食コンビニ弁当食で防腐剤付けだったのかしら?」と真顔でいった。現代は素晴らしい、独り身なら毎日自分が好きで食べたい物を食べて、生活することが可能だ。コンビニやスーパー、弁当売り場、あるいはファストフード店などで好きな食事が簡単に手に入る。まさかコンビニ弁当と因果関係があるとも思えないが、食材が腐敗しにくいのも確か!「現代版、夏の怪談話である」

AI人工知能の開発速度は凄まじく、もうすぐロボットに取って代わられる仕事が大量に出てくる。5年、10年先の仕事のあり方など全く分からない。

(千葉県八千代市勝田台、勝田陶人舎・冨岡伸一)

 

 

トマト

「むかしはこんなチッチャなトマト無かったよなあ」とサラダボールに乗せられたトマトをながめる。しかし小粒だがみんなまん丸でほとんど同じ大きさだ。一口で消えへ噛み切る必要も無し汁も飛ばない。トマトは南米原産であるが今ではその種類も多く世界では8千種、日本でも120種程が栽培されているという。桃太郎トマトなどは形も綺麗で味も良いが、我々の子供の頃のトマトは、もっと大きく形も不揃いで種類もずっと少なかったと思う。味は今のトマトより青臭く酸っぱいので、塩をつけて食べる人も多かった。だいたい日本で作る果実は時代と共に大きく立派になるが、トマトは逆にどんどん小粒になってきている。先日のトマトなどパチンコ玉の大きさしかないのには驚いた。

今は一年中出回っているトマトだが、かつては露地ものだけで夏限定の野菜であった。夏になるといつも野菜を売りに来る農家のおばさんが、トマトも一緒に積んで来る。冷蔵庫がまだ普及していない頃、井戸水で冷やして食べるトマトは旨かったが我が家は水道、井戸のある家の子がうらやましいと感じたこともある。また当時トマトは子供のおやつでもあった。丸や楕円の大きいトマトを丸ごと食べると「ほら、気お付けなさい」と言われるまもなく果汁が飛んで服を汚す!トマトの染みは洗濯してもなかなか取れないので、慎重に噛むがいつも上手くいかない。でも丸ごとかじるトマトが私は大好きであった。

「伸ちゃん、そんなにトマトが好きなら家においでよ」と農家のおばさんが誘ってくれたことがある。喜んだ私は早速おばさんについていく。リヤカーを押すのを手伝いながら砂利がひかれた農道を2キロくらい歩いて行くと、小高い丘の前におばさんの家はあった。さっそく近くの収穫を終えたばかりのトマトの畑に案内されると、そこにはまだ形の悪いトマトや傷ついたトマトが枝に残っていた。「伸ちゃん、ここのトマトなら全部食べていいよ!」とおばさんは笑って言う。それではと旨そうなのを見つけ食べ始めるが、3個も食べるともうギブアップだ!出されたコップの水を飲み一息ついて「ありがとう」礼を言った。草いきれのする畦道を一人帰ると、見上げる高い空には沢山の赤トンボが舞っている。「まずい!今日は何日だ」夏休みの宿題の事が急に心配になった。

当時トマトは自分にとって野菜なのか、果物なのかの区別が明確ではない。いつもオヤツの食べればそれは果物である。

(千葉県八千代市勝田台、勝田陶人舎・冨岡伸一)

タンポポオムレツ

アメリカ大リーグ、ロスアンゼルス・エンジェルスの大谷翔平選手が怪我から復帰して、また活躍し始めた。彼は日本人離れしたそのスタイルとルックスで、アメリカの女性からも非常に人気がある。そのため彼の嫁さん候補が気になり始める昨今であるが、海外で活躍するスポーツ選手のほとんどが、嫁さんは日本女性を選んでいる。でも私にはこの理由が分からない。一般の日本人男性ならともかく一流スポーツ選手は、高収入で体も大きく魅力もあり欧米人にもてるはずだ。しかし欧米人女性と結婚したという有名選手の話は、ほとんど聞いた事がない。先駆者であるサッカーの中田英寿さんがイタリアのサッカーチームで活躍していた時には、イタリア女性にも人気があったが恋人の噂すらでなかった。

「大谷翔平、アメリカ女性との交際の噂!」このような週刊誌ネタ話が来年あたりでると面白いのだが、彼も結婚相手には日本女性を選びそうな気がする。我々団塊世代は子供の頃に植えつけられた、アメリカ人に対するコンプレックスの裏返しで、白人女性に憧れを抱いた若者も多かったが、当時は生活レベルの差も大きく難しかった。今の若い一流選手は皆ハンサムで賢くて冷静、将来の展望などをしっかりと見据えていて、無理にリスクは取らないのか?そして特に超一流選手は皆さん凄くストイック(禁欲的)で努力家、ドロドロしたところをまるで見せない。

また若い政治家なども最近はストイックで精錬潔白でないと勤まらない。昔は地方議員などは、奥さんは地元で選挙民の対応に追われ東京で一緒に住まない。そこで必然的に東京妻ができる。それをとやかく言う人や記事にするマスコミもほとんどいなかった。でもこんなこと今時やったら大変だ。「公金を女に使った、私的流用だ!」などとマスコミや奥さんを初め皆に袋叩きに会う。知らないうちに凄い監視社会になっている。(お互いにお互いを監視して縛りあう)防犯カメラ、車載カメラ、スマホによる位置情報の管理など行動の多くが、自分の知らないうちに徹底的に監視されている。良い時代になったとは思うのだが?

ところで大谷君はタンポポオムレツが好きだそうで、それも自分で自炊するという。「うん、どこまでも器用で出来る男だ!」

(千葉県八千代市勝田台、勝田陶人舎・冨岡伸一)

ビィラ

イタリアペルージアの語学学校に通っていた頃、長期滞在になるのでペンションからワンルームのアパートに引っ越したことがある。ペルージアの町は歴史が古く、この石造りのアパートもかなりの年代もの300年以上経つと聞いた。私の借りた十畳位のワンルームには中央に大きめのベットがあり、簡単な箪笥とテーブルが置かれていた。4万円程の家賃ではこんなもんだろう?納得し住み始めたがトイレと一緒に付いているシャワーのお湯が出ない!それもタラタラと水が滴るだけだ。友達に聞くと、どこのアパートもだいたい同じだと言う。(山の上に街があるので水圧が低い)イタリアの夏は乾燥しているので汗は殆どかかないが、のどが異常に渇く。

何年もここに住んでいる日本人に聞くと、ドッチェリア(シャワー屋)があるからそこに行けという。街外れにあるその場所を教えてもらい尋ねてみた。入り口を開けるとおばさんがいて、銭湯のように三百円位の金を払い中へ入る。するとそこには幾つかの小さなシャワールームの扉が並んでいた。指定された番号の扉を開けると、二坪程の空間に脱衣場とシャワーが設置されている。そして見上げるとシャワーの上にはタンクがあり、ここにお湯が溜まっているらしい。このお湯を全部使い切ると終わりだと言う。でも体を洗うには十分で気持ちが良い!

イタリア人も余り体を洗わない、二週間位体を洗わなくても平気だ!しかしだんだんカビくさい臭いがしてくる。日本人は皆さん風呂好き!語学学校で知り合った大阪出身の友人ヒロシ君と、「風呂行くか?」授業が終わると誘い合い、三日に一度はここに通うようになった。(彼はその後ここで知り合ったベルギー人の彼女と結婚したが、その後の消息はわからない)そして風呂上りにはビールが美味い。帰りには必ずバールに立ち寄り、通りに置かれた藤の椅子に腰掛け、ビールを飲みながら行きかう人々を眺め雑談する。30歳で同じ年齢の人々が日本で忙しく働いていると思うと、極楽トンボいいとこだった。

イタリア人はワインが主でビールはあまり飲まない。ワインを好むラテン系の国々では相対的にビールは余り美味くない。

(千葉県八千代市勝田台、勝田陶人舎・冨岡伸一)

ブラックサンダー

今年の5月にマレーシアのマハティールさんが、再び首相に返りざいた。以前にも彼はマレーシアの首相を務めいて、長く政権の座にありマレーシア発展の礎を築いた人である。シンガポールのリー・クアンユーさんと並び東南アジアでは立派な指導者であったが、70歳を超えたところで自ら政権を降り後継者に道を譲る。しかし後を受け継いだ何人かの与党の首相は汚職まみれで、多くの国民から批判を浴びることになる・・・。そのため退職後クルーズ船に乗ったり、悠々自適の生活を送っていたマハティールさんに、再度出馬要請の声が国民からあがった。そして彼が作った現政権与党は信頼できないと、あえて野党を新規に立ち上げ政権を奪い返した。

「あと2年して政権が安定したら、辞任します!」と彼はインタビューに答えていたが聞けば御歳92さいで、民主的に選ばれた世界の指導者の中では最高齢だという。背筋を伸ばし、全く歳を感じさせないその言動には感銘を受ける。人生100歳時代になると、このようなことも起こりえるのか?政界ではかつて日本でも「50,60はハナタレ小僧!」と呼ばれていたこともあったが、マハティールさんから見れば全くそのようだ。でも彼のような偉人とよばれる人はめったに現れない。政権の座に長く着いても、初志貫徹できる人など殆どいないと考えるべきだ。そのために定年や任期を設ける。でも最近この制度を改悪する動きも目立つ。

いま日本では、レスリング、アメフト、ボクシングとフェアープレイを標榜すべきスポーツ界で、パワハラ問題や不正などトップに居座る人々による、強引な権力行使が非常に多い。最近わが母校日大のアメフト部では試合中の関学の選手に、ルール違反の強烈なタックルで社会問題になった。監督、コーチの指示での行為だが、権力の座に長くいると組織や人は汚職や腐敗を招き、健全なガバナンスの維持管理が難しくなる事例の一つだ。人々の権力批判などが自由に発言できるはずのネット社会でも、ロシアや中国を初め一人の人間が、権力の座に執着する傾向が強くなってきている・・・。自民党も多数与党を背景に安部さんがいろいろ問題を抱えながらも、3選する可能が非常に高い!

ところで安部首相の好きな食べ物は、有楽製菓から販売されている一個30円のチョコレート菓子、ブラックサンダーだと言う。

(千葉県八千代市勝田台、勝田陶人舎・冨岡伸一)

 

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