新幹線

先月前半の4月2日、コロナ騒ぎで緊急事態宣言がでる直前に十年来付き合いのある、姫路のメーカーに出張に出かけた。ちょうどこの日は私の人生最後となる仕事おさめであった!明日からは完全に離職し、やっと優雅な余生を送ることが出来ると思うと気分ウキウキ、多少の寂しさは残るが開放感を感じつつ、自宅から早朝本八幡駅に向かった。時節がら新幹線に乗車するのは多少不安を感じる。しかし三密の通勤電車とちがい、東京駅新幹線ホームに立つと人影もまばらでほっとする。さっそく停車中の広島行きノゾミ車両に乗り込むと、想像以上に車内はガラガラで、十人程度の乗客が席をうめるだけ。これならソーシャルディスタンスも充分に保たれると思った。

私が会社勤めを始めた半世紀程まえ東海道新幹線はまだ大阪止まりで、出張先神戸には新大阪から在来線に乗り換えての移動であった。しかしその後すぐに山陽新幹線が神戸まで開業する。私と新幹線の付き合いは長く、デザイナーとして独立した27歳の時にさかのぼる。それから先月まで関西の靴メーカーに月平均二度、45年間通い続けたのでトータル千回は新幹線で往復した勘定だ。そのため近年は車窓の外に目をやると、今どこを走っているかが瞬時に見て取れるようになっていた。長かった新幹線通勤で特に印象深い車窓の思い出は、独立してまもなく初仕事の依頼を受けた神戸からの帰路、うれしくてビール片手に垣間見た田んぼ一面にピンクレンゲ咲き誇る、早春濃尾平野の情景だ。

いまJR東海ではリニア新幹線の路線工事が進行中であるというが、静岡県の反対で事業計画が頓挫している。静岡県知事曰く「わが県は駅建設の予定もなく通過するだけで、工事で地下水脈なども寸断され環境破壊に繋がり、何も恩恵を受けない」また最近ではこのリニア新幹線、本当に必要なのかという声も上がる。強力な磁場を作り出しての列車運行は、乗客の健康に害があるという研究も以前からあった。海外の車輪走行の従来型新幹線では400キロ近くで運行する国も存在する。同様に日本の新幹線も現在の三百キロから四百キロに速度を上げることは可能らしい。でもリニアにこだわるJRではとりあえず,これ以上は速度を上げての運行には否定的だ。このコロナショックでZOOM使用のリモート会議などが普及すると、今後出張も減ると思うのだが。

良く考えてみれば人が早く移動するよりも、その場所にいて通信による情報交換のほうが効率的でより早い。通勤やオフィスもあまり必要ない時代がやって来るとしたら、過大投資のリニア新幹線も無用の長物に!(勝田陶人舎・冨岡伸一)

弁当

「釜飯いかがですか、弁当いかがですか!」と駅のホームで到着した列車の乗客に向かって声をかける。すると車両の窓が開き、乗客が手を振り弁当売りを招く声があちこちから。ここ群馬県碓氷峠下の横川駅での停車時間はおよそ5分、いかに弁当を短時間で多くさばくかは売り子の手早さが勝負だ。横川の釜飯弁当はお釜の形を模した陶器に入っていて人気がある。そのため肩からつり下げられた木箱に弁当を20個詰めるとズッシリ重い。それを抱えながら開けられた窓から弁当を手渡し走り回る。つり銭などお金のやり取りもあり、もたもたしているとじきに発車のベルが鳴り響く。「ガッタン!」列車は買いそびれた乗客の溜息を残しゆっくりと走り出した。

実はこれ半世紀前の「峠の釜飯」というテレビドラマの1シーンである。スタジオには横川駅の簡単なセットが組まれ、役者が右往左往する。しかしテレビカメラはフォーカスするので余分な所は映らない・・・。私が大学に入るとプロダクションでバイトをするクラスメートがいた。「今日エキストラ3名募集、誰かいないか?」と雑役をかき集める手配が彼の仕事だ。テレビ撮影は撮り直しなどダラダラと長時間拘束されるが、体が楽なので時々この誘いに乗ってみた。そして後日家族とこの番組を見たが、遠くに私の姿が一瞬映る程度であった。このとき控室を持たない、チョイ役の無名俳優がいた。彼は私の横に座り、「こんなこと一生やってんのか俺・・・」とポツリ。ところがそれから30年後に、彼は名わき役として活躍する。

最近は何かと弁当が話題に上がる。このウィルス騒ぎでどこの飲食店も売り上げが激減、弁当にその活路を見出すところが多い。先日知り合いの肉屋でハンバーク弁当880円也のディレバリーをたのんだ。黒毛和牛使用ということで確かにコンビニ弁当よりは旨い。しかしウーバーイーツではないが、ディレバリーにも人権費がかかる。配達までしてこの値段で利益が出るのか気になる。でも家賃など固定費はかかり続け、何もしないで遊んでいるよりはましだと彼らはいう。この問題が収束するまでに後二年はかかるらしく、じっとしている訳にもいかないのだろう・・・。ところでいまキッチンカーを購入する人が多く製造が追いつかないらしい。これなら注文があった人の自宅前に車を止め、熱々料理を提供すればとても便利だ。

戦後チャルメラを吹き手押し車を引いた屋台のラーメン屋が、夜になると街にやってきた。でもインスタントラーメンが普及するとこの商売も消えた。ラーメン屋の「田所商店」キッチンカーを始めてください!(勝田陶人舎・冨岡伸一)

 

工房の前の森には所々に桑の木が自生している。植えたものでは無さそうなので、鳥などによって種が運ばれてきたのだと推測する。桑の葉は形が面白いので時々摘んでは、皿などに転写し図柄として利用することもある。この桑の葉を好んで食べるのは、あの美しい絹糸を吐き出すカイコである。北関東では戦後もしばらくは、このカイコを使った養蚕がさかんで殆んどの農家は兼業で、自宅の屋根裏でカイコをかっていた。そのため養蚕農家では深夜寝静まり静かになると、沢山のカイコが桑の葉をモリモリ食べる音が不気味に聞こえてくるという。それでも養蚕は当時貴重な現金収入!オカイコサンと敬い、この蛾の幼虫と同居し大切に育てていたのだ。しかしアメリカでナイロンなどの化学繊維が発明されると養蚕は急激に廃れていった。

父親まで三代続く日本刺繍の家系に育った私は、幼児の頃より絹で織られた着物や帯に囲まれて育ったので、絹織物には愛着がある。当時自宅にはまだ糸に撚られる前の生糸の束もたくさんあり、父親はそれを染色し必要な太さに撚り上げて、反物に針を刺していた。そして私も家業の4代目継承者だ、3歳の頃よりすでに針を持ち運針の手習いを始めていた・・・。「あなた上手だね!」ふだん殆んど先生に褒められたことのない私が、小学校の家庭科の授業では一度だけ褒められたことがあった。それは雑巾を運針で縫う作業で、並み居る女子児童を差し置いて速さと綺麗さでブッチギリで一番!このときの家庭科の通信簿に5が付いたので良く記憶している。そりゃそうだ、こちとりゃ3歳から針を持ち、あんたらとは年期が違うと・・・。

ところが同じ蛾の幼虫でもツマジロクサヨトウという蛾の幼虫は、わけが違うらしい。カイコは桑の葉しか食べないが、この幼虫はなんの葉でも食べる。そしてその食欲と繁殖力が凄まじく、成虫になって飛んでドンドン移動していく。いま中国ではコロナウイルスの後、サバクトビバッタの襲来に危機感をつのらさているが、実際にはこの蛾の幼虫の被害も各所で出始めている。農薬散布にも耐性を持ち大量にまかないと駆除できないという。それでなくても中国産の野菜などは今でも農薬の心配がつきまとう。今年は異常気象でアフリカの砂漠地帯で雨がたくさん降った。その結果またまたサバクトビバッタの第二派が大量発生し、風に乗り東に移動して最終的には中国をめざすらしい。

もし中国が害虫被害で食糧難になったら大変だ!各国の食料を買いあさり争いになることも。いよいよ神の審判が下る!とモノミノトウのパンフレットがポストに・・・。(写真・桑の葉のはし置き、勝田陶人舎・冨岡伸一)

粗大ゴミ

3年ほど前のこと。もう半世紀近く前から使っていた小さな冷蔵庫が、ついに壊れたので処分することにした。しかしずいぶん長持ちしたもんだと感心する。当時日立のモーターは絶対に故障しない!とのふれこみを受けての購入であった。今の冷蔵庫と違って半導体など余分な部品がなく、単純なため動き続けたのだと思う。ところがこの冷蔵庫の廃棄処分には困ることになった。車の荷台に重い冷蔵庫を載せ、市営のゴミ処理場へと運んだのだが、係員に「冷蔵庫はここでは受け取れないのです。買った電気屋に持っていってください!」とつれない返事だった。困った、買った電気屋はとっくに店をたたんで今はない。しかたなく懇意にしている街の電気屋に引き取ってもらった。しかし7千円の処理代にはビックリ。昔ならクズ鉄屋に五百円位で売れたのに、今はゴミや不用品は全て金を払わないと引き取らない。

「えー、嘘だろうそんなこと絶対にあるわけない!」朝起きてニュースをみていると、なんと原油価格がバレル・マイナス35ドルに急落したと言う。間違いだろう?にわかに信じられないこの現象に驚き、ネットニュースで確認するも事実であった。どうしてこんなことになるのか?色々調べてみると、このコロナ騒ぎで燃料をがぶ飲みする航空機が殆んど飛ばず、また各国の都市封鎖で自動車も動かない。そのうえ最近アメリカのシェールオイル開発で原油はだぶつき、オペックの原産合意も予定より少量であった。そのため通常はリスクヘッジとして機能している原油先物価格の決済日に原油の買い手がない。そこでお願い、金を出すから原油すぐに引き取ってちょうだい!ということになってしまったらしい。

買い手は原油をタダでもらえるうえバレル(1樽)35ドルの引き取り料も受け取れるのだ!これならだれでも喜んで受け取ると思うのだが、最近の原油価格の低迷ですでにどこの国のオイルタンクも満タンで保管する場所がない。生産者も原油の掘削を一度止めると、再開には金もかかるという。でもこの現象はたまたま先物の決済日に起こったことで、原油の現物価格は低迷しているが10ドル代で推移している。そこでわれわれがタダで石油を手にすることはない。特にガソリン価格はリーターあたり53円の税金がかかる。輸送コストや精製コストも別にかかるのでいくら安くても、リッター百円を切ることはないのでは?本当にこのコロナ騒ぎは日々何が起きるかわからない。通常貴重な原油が、粗大ゴミに化けた歴史的瞬間であった。

最近ほとんど車に乗らない私は、ガソリンスタンドでのセルフ給油の仕方が今だに分からない。店員を呼んできて聞いても時間が経つとまた忘れる。スーパーのレジ、飲食店でのタブレット注文とシルバー世代には憶えることが多すぎる。(勝田陶人舎・冨岡伸一)

 

10万円

やった!コロナショックで政府が国民全員一律に10万円を支給するという。いつも税金を取られるばかりなので、たまには頂くことがあってもよいのではないか?でもこんなこと一生に一度あるかないかの緊急事態で、それだけ今後やってくる時代が厳しいということでもある。この支出には総額で12兆円、このほかにも百兆円規模の財政出動を計画している。国は現在一千兆円の財政赤字を抱えていてなおかつの出費、日本の財政は大丈夫なのか気にかかる。でも国民の金融資産は一千八百兆、上場企業の内部留保が四百兆、貿易黒字が三百兆もある。しかし現在日本国はアメリカよりも財政的には豊かな国なのだ。そこでいま金をばらまき財政赤字をもっと膨らませないと、ドル以上に安全通貨といわれる円に海外から金が流れ込み、また極端な円高になり輸出企業が困る。

十万貰ったら何に使うか?微笑みながらいろいろ頭を巡らす。今回この金での貯金はなしだ。物を買って世の中に金を回さなければ、金につまって壊死する企業が続出する。そこでこの際とりあえず古くなったパソコンでも買ってみようかとも思う・・・。いま海外のニュース番組などを見ていると、キャスターのほとんどがパソコンなどを駆使して、自宅からコメントするテレワーク!そのため映像の背後には居間などの様子も映るので面白い。壁に好きな絵などをかける人、窓から望める景色を自慢げに写す人など、その人の個性がでる。たまには突然犬や幼児が飛び込んできたりして、爆笑することもある。そして現在コロナのために日本でも報道番組が換気の悪いスタジオから離れ、コメンテーターは自宅からの発信に急速に変わってきた。

そして同じく混雑する電車通勤を避け、オフィスに行かない自宅でのリモートワークに変えたサラリーマンの間で流行っているのが、ズームなどモニターを通しての飲み会だという。缶ビール片手に手軽にチャット、これなら金もかからず飲みすぎて終電に乗り遅れることもない。でもこんなこと数年続けると習慣化される。コロナが収束してもテレ飲みで充分だともなりかねない・・・。このような大きなインパクトがあるとパラダイムシフトが必ず起きる。今までの慣習や価値観が根こそぎ変わり、時代はもう元には戻らない。「コロナが過ぎればまた客足はもどるよ!」とある居酒屋のオーナーは語った。でも5Gの通信革命はもう直ぐそこまで来ている。飲み方も変わり遠のいた客足は元には戻らないかも?

これを機会にあらゆる業種、業態でかつてない劇的な変化に襲われる。ピンチはまたチャンスでもある。大きく栄えた恐竜は亡び、ネズミのような小さな哺乳動物にもあらたな飛躍の機会があるかも。(勝田陶人舎・冨岡伸一)

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