イセエビ

「おうー、凄い透明度だ」船着場の岸壁から海の中を覗くと10メートルはある水深の海底がはっきりと確認でき、大小さまざまな魚が泳ぎまわっている。「ようし!」借りてきた釣竿の糸を垂らし早速作業開始。すると直ぐに突然の強い引き、驚いて竿を持ち上げるがなかなか上がらない。「これは大きいぞ」嬉々とするが、「ありゃ、なんだこれ」変な見慣れない魚がかかってきた。針先に付いていたのはなんとフグに似たハリセンボンだった。それも水を吸い風船のようにまん丸に膨らんでいる。水を飲んだハリセンボンは重い、やっと岸壁に上げ針を外すために、口の中に棒を刺すと口の便が開いて水がドッと出てきた。するとハリセンボンは空気の抜けた風船のように、ヘタヘタと潰れてペチャンコになった。

「面白い!ハリセンボンは、まるでパンクしたタイヤみたいだ」でもそれから何度釣り糸を垂らすも、上がってくるのはハリセンボンと綺麗な色のベラだけ、食えそうな魚は何もかからない。やっぱり港の岸壁ではだめか?透明度が高く、魚もこちらの姿が見えてるはず。「かかるのは余程アホな魚だ」半世紀も前のこと、大学の夏休みを利用して近所の先輩と、彼の姉さんの嫁ぎ先である八丈島に遊びに行ったことがあった。夕方芝浦の桟橋を出航し、雑魚寝状態の船倉で揺られながら一夜を明かすと最初の寄港地三宅島に着いた。それからまた数時間船に揺られて、昼過ぎに八丈島の八根港で下船する。

やはり八丈島は南国だ。なんとなく風景が違う。椰子の木のように背は高くはないが、いたるところにフェニックスが植えられている。聞くと葉を切って生け花用にと東京に出荷しているという。バスで揺られ大賀郷にある姉さんの家に着くと、当時はあまり東京からの来客の無いご夫婦は、大喜びで歓迎してくれた。そしてこの日の夕食が凄かった。「わおー!」いままで見たことがない程の大きなイセエビの登場だ。「これって40センチはあるよね!」それが一人一匹だった。尾の部分を刺身で食べたがとても食べきれない・・・。その頃は東京への出荷経路も整備されておらず、巨大なイセエビも主に島内で消費されていたようだった。そして始めてみた八丈の果物ではパッションフルーツがあった。蔓のような木になるこの実はそのまま食べると殆んどが種ばかり、でもジュースにすると結構美味かった。

今では多分大きなイセエビはとれても、殆どが東京に出荷されると思う。産地にわざわざ出向いても、逆に手に入らない物もけっこうある。

(千葉県八千代市勝田台、勝田陶人舎・冨岡伸一)

 

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