鳩サブレ

「まさかあの飛んでる鳩、俺の鳩じゃないよな!」小学5年生のころだったか。三時限目の体育の時間に校庭に出て、いつものようにやる気の無い態度で体操をしながら、ぼんやりと空を見上げた。すると一羽の鳩が上空を旋回している。ハッ!として下から凝視する。「あれー、翼の部分に白い羽が混ざった俺の鳩にそっくり」やーな予感がしたので、授業が終わると自宅へ飛んで帰った。「やっぱりそうか、ガーン!」鳩のいない小屋の前に立つとヘタヘタトと全身の力が抜けた。リンゴ箱二つを八百屋から買ってきて繋ぎ合わせ、丸一日の大工仕事のすえ苦労して作った鳩小屋がモヌケノカラ!どうも今朝餌をやるときに鍵を掛けを忘れたらしい。

「飼ってから2ヵ月間は帰巣本能が付かないので、絶対に飛ばしちゃだめだぞ!」と鳩をくれたお兄さんに強く言われていた。でも今日でまだ飼ってから2週間しかたってない。これでは家出した鳩は戻ってくるはずがない。諦めきれずにそれから1週間位は、鳩小屋を覗いては不在を確認していた。でも考えて見ると学校と自宅の距離は800メートルも離れている。あの鳩はわざわざ俺に「さようなら!」を言いに来てくれたのだろうか?今でもその時の偶然は不思議に思う。それからはどうしても鳩を飼いたいという熱は冷めていったが、神社仏閣などで鳩の姿を眺めると当時を思い出すことがある。

数年前、町会のバス旅行で久しぶりに鎌倉を訪ねる機会を得た。鎌倉八幡など恒例の数箇所の観光スポットを尋ねた後、最後に鎌倉大仏に立ち寄った。ガイドの説明によると、この大仏は昔は東大寺の大仏のように大きな大仏殿の中に鎮座していたという。それが明応4年1495年この地を襲った津波で本殿が倒壊してからは露仏になった。こんな所まで津波が来るのか!恐ろしい、あらためて津波の力を思い知る。でも今ではその記憶も遠のき、皆さんゆっくりと散策などをしている・・・。するとふと道の向こうを見ると鳩サブレの豊島屋本店が目に入る。「鳩サブレか?」相変わらず店は客で混んでいたが、鎌倉の名物なので3箱土産に買って帰った。

むかしゼンマイの代わりに分銅の重さで動く、鳩時計というちょっと変わった時計があった。長針が12を指すと小屋の戸が開き鳩が扉をあけて飛び出してきて、ポッポと時を告げる。可愛いのでこれも子供の頃に欲しかった物の一つだ。

(千葉県八千代市勝田台、勝田陶人舎・冨岡伸一)

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