山菜蕎麦

蕎麦屋に入り席に座るとメニューを一瞥するも、たいがい頼むものはいつも決まっている。一人のときはザル蕎麦、複数人の時は天ぷらセイロである。私はせっかちの方で、ランチなどは食べて直ぐに席を立ちたい。すると天ぷらなど余分な物がつくと、どうしても食事に時間がかかる。それに早食いは消化に悪く天ぷらは後で胃もたれする。ところが連れがいると食後ゆっくりするので、結果天ぷら蕎麦でも胃への負担も少なくてすむ・・・。しかし時々魔が差して、連れが「山菜蕎麦」などを頼むと自分も同調してしまう時もある。でもこの山菜蕎麦を私は旨いと思ったことが無い。山菜とは名ばかりで傘の開いた小さなナメコ、なんとなくアク出しに使った灰などのエグ味の残る、ワラビや「ゼンマイ」は好まない。

ゼンマイといえば「ボーン、ボーン」と柱時計が12時を告げる。戦前から我が家のあった時計は「草木も眠る丑三つ時」(今の深夜1時から2時頃でこの時間帯に、昔はお化けが出るといわれていた)になり物音一つしない静寂になると「カチ、カチ、カチ」と秒を刻む音がわずかに聞こえてくる。怪談話などを聞かされた深夜目が覚めると、一人でトイレに行くことさえ躊躇して、このカチカチ音を耳で追ったこともある・・・。乾電池などの普及してない戦後、自動で動く物の多くがまだゼンマイで可動していた。当然高い位置にかかるその柱時計もゼンマイ仕掛けで、3日に一度ぐらいのペースで脚立に上り、鍵穴にキーを指しキリキリとゼンマイを巻いていた。この作業を怠ると、時計は止まり時間が分からず慌てることになる。

「何という時代の変わりようだ!」先週テレビを見ていたら、ある小学校の授業風景が報道されて驚いた。なんと人型ロボットを子供達が自分でプロミラミングし、デングリ返しや逆立ちさせたり自由に操っていた。これを見ると確かにガンダムの登場する時代も、現実味をましてくる・・・。我々が子供のころに好きで遊んだ自動車のオモチャなど、殆んどはゼンマイで動いていた。しかしこのブリキで作られたゼンマイのオモチャは、数日使用するとゼンマイが切れて直ぐに動かなくなる。でも私が特に欲しかっのが、ギーコ、ギーコと二足歩行でただ歩くだけの、ブリキロボットのオモチャであった。でもこれも動力はゼンマイなので10歩も歩くと直ぐ止まる。しかしこのロボットでさえ高価なので、オモチャ屋で眺めるだけであった・・・。

60年以上前の私は糸巻きのボビンと割り箸を材料に、輪ゴムの動力でタンクを作って遊んだ。これから60年後、子供達の遊びの変化など想像すらできない。

(勝田陶人舎・冨岡伸一)

 

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