茶飲み話・遠くへ行きたい
先日ユーチューブで昭和の懐メロなどを検索していると、男はつらいよの主演、寅さんこと渥美清の歌う「遠くへいきたい」を見つけた。「へー、寅さんって歌うたうんだ!」と興味を感じ早速聞いてみる。するとこれが結構シブイ。どことなくロマンチックに歌っていた。彼は若い頃に生活苦で大病し、必ずしも健康体ではなかったので叙情的感情表現が上手いのかもしれないと思った。
単純な旋律のこの曲は私も大好きなので青春時代にはよく口ずさんだ。でもこの歌はある意味で難しい。声の質が良くオペラ歌手のような人より、かすれ声でぼそぼそ歌う方がどちらかと言うと感情が伝わる。日常生活に行き詰まり、現実逃避を願う時などにこの曲を歌えばピッタリとはまる。もっとも現実に満足し、元気溌剌オロナミンCで、遠くに行きたいなどハミングする人などいないかも。
思い出深いこの曲を最初に聞いたのは私が高校生の頃で、ジェリー藤尾がシャボン玉ホリデーで歌っていた。ちょうどこの頃は、多くの日本人が無我夢中で働いてきた戦後も終わり、立ち止まって我が身をを振り返る余裕が生まれた時期と重なる。そこで「一息ついて旅にでも出かけるか!」と旅行ブームが始まった。東海道新幹線も開業し、東京から京都、奈良へのアクセスも飛躍的に向上する。
「面白い映画があるから見に行かないか」。大学に入学し、友達になったばかりの級友に誘われて、新宿の映画館で観たのが寅さんシリーズの「男はつらいよ」第一作である。この映画はたちまち評判になり連載を重ね、ついには渥美清が亡くなる直前まで続き、50作品もの映画が放映された。寅さんの実家がある葛飾柴又は私の自宅からも近いので、帝釈天には近親感を感じていた。
そしてちょうどこの頃、一部の若者の間で寅さんの様にカバン一つで放浪の旅に出るボヘミアン的生き方が流行った。学校を卒業し会社勤めの既定路線を外れ、好き勝手に生きる理想だ。彼らは海外にも足を延ばし北欧などにもたむろす。しかし暫くすると大多数は帰国し現実を受け入れていく。私もその一人!遠くへ行きたいの曲を聴くと青春時代の追憶がよぎる。(いよいよ中東戦争勃発か?勝田陶人舎・冨岡伸一)