オモテナシ

私は朝10時開店と同時に百貨店に入店するのは凄く抵抗を感じる。「いらっしゃいませ」と店員さんやテナント販売員さんたちが、深々とお辞儀をし笑顔で出迎えてくれるのは良いのだが、彼らの視線を浴びて目的の売り場まで中央突破するのは二の足を踏む。しかしこの感覚は私の個人的なもので、他の人も同様であるとも思えない?そのため百貨店独特のこのセレモニーを避けるため、入り口付近で時間を潰し10分遅れで入店することもある。そして売り場に到着後も、こちらがまだ品定めをしている最中に「いかがですか?」などと店員さんが近寄ってくると、捜すふりをして立ち去ることもあった。でも百貨店とは元来オモテナシを受けたい人の店なのだから、こんな客は量販店で購入すればよい。

いっぽう接客といえばこの半世紀で激変したのは、交通機関の職員ではないだろうか。とくに国鉄がJRに変わる前の職員の対応などはひどかった。電車に乗せてやるという感覚が強く、鉄道はサービス業という自覚などは全く無かった。乗り換え時間を職員に聞いても、めんどくさそうに対応するので気分を害することもあった・・・。「今度の旅行とても楽しかったわよ、案内の職員さんが面白くてさあ、あんな良い人が国鉄にもいるのね!」当時たまたま国鉄の企画する旅行に参加した母親が、帰宅するなり開口一番言い放ったことがある。国鉄は明治維新後、失職した武士たちの受け皿となっていたため、職員は気位が高く頭を下げることなどしない。これがずっと伝統になっていたので、母親にはかなりの驚きであったようである。

いま百貨店はどこも休業状態だったので直近の決算は大赤字である。インバウンドの中国人客も殆んどゼロで、このままだと倒産しかねない。でも百貨店の売り上げ減少に歯止めをかけるための秘策などあるのか?先日ある百貨店の社長がその解決策として、より高いオモテナシの心とコンサルタントとしての販売員のスキル向上を上げていたが今のネット社会、スマホひとつあればどんな情報でも瞬時に入手できる。これからソーシャルディスタンスが常態化すると、売り場は無人で商品タグにスマホをかざせば、瞬時に商品情報が見られるほうがよいのではないか?対面でのていねいな接客が売りであったデパート、すでに不要に感じる接客に固執するとガラ系に沈んでいく。

この感染症により10年かかるとされた時代の変革が、いま急激に進み始めた。オリンピックを目指し推進してきたオモテナシの接客も近未来には、余分なものとして葬りされかねない。(勝田陶人舎・冨岡伸一)

 

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