ダンヒル

病院の職員さんでも今だにタバコを吸う人がいる。自ら率先して禁煙を指導する立場の人が禁煙できないとは情けない。私の工房横には勝田台病院という名の病院があるが、数年前に院内が禁煙になると院外の私の工房脇で、一部職員が隠れるようにタバコを吸っていた。しかしこの場所も喫煙禁止になったようで、ひっそりと灰皿として吊るされていた缶もはずされた。でも休憩時間などに病院から離れた場所で、まだタバコをくわえる人を見かける。酒は飲むがタバコを吸わない私はどうしても喫煙者に注ぐ視線はきびしい。数年後には小さな飲食店でも全面禁煙にする法改正などもあり、喫煙者にとっては肩身が狭くなる一方である。「私は意志が強い!強いので喫煙は絶対に止めない」といった友人がいたが、確かに今だに止めないのは意思が強いのかも?

「冨岡さん、店のマッチのデザインしてよ!」大学生の頃、新しく開店したばかりの「レモン」という名のスナックに通い始めると、この店のマスターから絵を描くのが好きだと知った私に、マッチ箱のデザイン依頼があった。早速レモンの輪切りや外形を並べた下書きを、翌日マスターに見せると「これ良いねえ!ありがとう」と即採用になったが、ギャラは店でのビール2本だけ!でもこれがその後デザイナーになった私の生涯初仕事になった。当時はどこの店でも籠に入ったサービスマッチ箱がカウンターに置いてあり、自由に貰えたのでマッチ収集を趣味にする人もいた。私のこのパッケージ意匠の評判はよく「タバコを吸わない人でも持ち帰る人が多い」とマスターから聞いた。

ところであんなに何処にでも転がっていたマッチが、最近では全く見かけない。喫煙者も少なくなったので需要がなくなったのだと思うが、代わりに登場した百円ライターですら最近では見る機会が少ない。「どうだー、このライター良いだろう!」むかしよくダンヒルなどの高額のライターをこれ見よがしに取り出し、自慢げにタバコに火をつける奴が結構いたもんだ。飲み屋の女性も持っているライターと腕時計のブランドで、客の品定めをすると聞いたこともある。当時浅草の仕事場近くのラーメン屋のマスターと時々飲みに行ったが、厨房で中華鍋を振る彼のゴツイ手に巻かれたロレックスの高額時計と、タバコを吸う時に取り出した細いダンヒルのライターが、太い指とアンバランスでユーモアを感じた。

腕時計は高校入学時に父親から銀座和光で買ってもらったセイコーの一本だけで、その後腕時計はしない。ライターは百円ライターとマッチがお気に入り。とうぜん財布は持たず何時もポケットに現金を忍ばせて通した。でも携帯電話を使うとバックを下げ、パスモを使い始めると財布が必要になった。

(勝田陶人舎・冨岡伸一)

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