トマト

「むかしはこんなチッチャなトマト無かったよなあ」とサラダボールに乗せられたトマトをながめる。しかし小粒だがみんなまん丸でほとんど同じ大きさだ。一口で消えへ噛み切る必要も無し汁も飛ばない。トマトは南米原産であるが今ではその種類も多く世界では8千種、日本でも120種程が栽培されているという。桃太郎トマトなどは形も綺麗で味も良いが、我々の子供の頃のトマトは、もっと大きく形も不揃いで種類もずっと少なかったと思う。味は今のトマトより青臭く酸っぱいので、塩をつけて食べる人も多かった。だいたい日本で作る果実は時代と共に大きく立派になるが、トマトは逆にどんどん小粒になってきている。先日のトマトなどパチンコ玉の大きさしかないのには驚いた。

今は一年中出回っているトマトだが、かつては露地ものだけで夏限定の野菜であった。夏になるといつも野菜を売りに来る農家のおばさんが、トマトも一緒に積んで来る。冷蔵庫がまだ普及していない頃、井戸水で冷やして食べるトマトは旨かったが我が家は水道、井戸のある家の子がうらやましいと感じたこともある。また当時トマトは子供のおやつでもあった。丸や楕円の大きいトマトを丸ごと食べると「ほら、気お付けなさい」と言われるまもなく果汁が飛んで服を汚す!トマトの染みは洗濯してもなかなか取れないので、慎重に噛むがいつも上手くいかない。でも丸ごとかじるトマトが私は大好きであった。

「伸ちゃん、そんなにトマトが好きなら家においでよ」と農家のおばさんが誘ってくれたことがある。喜んだ私は早速おばさんについていく。リヤカーを押すのを手伝いながら砂利がひかれた農道を2キロくらい歩いて行くと、小高い丘の前におばさんの家はあった。さっそく近くの収穫を終えたばかりのトマトの畑に案内されると、そこにはまだ形の悪いトマトや傷ついたトマトが枝に残っていた。「伸ちゃん、ここのトマトなら全部食べていいよ!」とおばさんは笑って言う。それではと旨そうなのを見つけ食べ始めるが、3個も食べるともうギブアップだ!出されたコップの水を飲み一息ついて「ありがとう」礼を言った。草いきれのする畦道を一人帰ると、見上げる高い空には沢山の赤トンボが舞っている。「まずい!今日は何日だ」夏休みの宿題の事が急に心配になった。

当時トマトは自分にとって野菜なのか、果物なのかの区別が明確ではない。いつもオヤツの食べればそれは果物である。

(千葉県八千代市勝田台、勝田陶人舎・冨岡伸一)

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