列車

「待って、待って・・・!」と走り始めた列車に向かって、女性が手を振りながら必死な形相でホームを走って追いかけてくる。客室の通路に立ち外を見た瞬間「嘘だろう、まさか!」。「大変だー彼女ホームに下りたのかよ」一同騒然となり「どうしよう、彼女初めてだろう」。「そうだよ」だからあれほど列車に一度乗ったらホームに絶対に降りるな!と言ったのに「しょうがないなあ」。「やっちまったか!」次の列車でなんとかフィレンッエまで追いかけて来るだろう?ミラノ駅はどんどんと遠くなりあきらめて席に着いた。しかし彼女の形相を目撃した私は、事の重大さを考えつつもおかしくて笑い転げそうな自分を感じていた。

イタリアでは日本と違って、列車出発のアナウンスや合図などは全く無い。笛一つ吹かないのだ。いきなり「ガッタン!」と走り出す。時間も正確でないので時計など確認してもだめ、五分十分の遅れはあたりまえ。出発の合図がないので列車に乗ったら、買い物など思いついても絶対にホームに降りないのが、暗黙のルールなのだ。旅なれた人はみな承知だが、初めての人は日本の感覚でいる。そのため一緒に行動するグループの人には事前に知らせておくが魔が差したのだろう。彼女はホームに降りてしまった。今のようにスマホでの通信手段もない頃で連絡の取りようが無かった。

列車が次の目的地フィレンッエに着くと、同行者には先にホテルに向かってもらい、私一人残って駅で待つことにした。そして二時間後に無事に次の特急で彼女が到着し事なきをえた。「どうやって来たの?」の問いかけに、この一部始終を見ていた駅員が、言葉が話せない彼女を次の列車に案内してくれたそうで、助かったと言っていた。「どうして降りっちゃたのよ」と聞くと、彼女の弁明が面白いかった「旅の思い出にと思い、先頭車両の写真を撮りに出た。ホームの端まで行ってカメラを構えファインダーを覗き込む。ピントを合わせたが、なかなかピントが合わない。あれおかしいなあ、目の錯覚か?と思った瞬間。全身の血の気が引いたとか、列車が遠ざかっていく!走って追いかけたが間に合わなかった」

写真は列車の切符。イタリアの列車の駅には改札が無く、精算は車両内で車掌が行なう。切符は回収しないので集めておいたものです。(千葉県八千代市勝田台、勝田陶人舎)

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