フルーツポンチ

むかし日本橋三越の6階には大食堂があった。(家業が三越の仕事をしていたので毎週にように通った)当時その食堂には白い円卓がたくさん置かれていて、食事をする多くの人で賑わっていた。和食、中華、洋食、デザートと多くの料理のメニューがあり、何を食べても美味しかった記憶がある。この中でもよく食べたのが、幼児の頃はお子様ランチ、成長するにつれて五目そば、チョコレートパフェ、それに果物好きだった私の大好物フルーツポンチである。透明なガラスのゴブレットに入った各種の果物は彩りもよく、甘い蜜に浸かり輝いていた。それを紺の半そでワンピースに、レースの付いた真白いエプロンをかけた綺麗なお姉さんが、笑顔で運んでくれる。少年時代にしてはちょっと優雅な気分にさせてくれる、お気に入りのひと時であった。

それから地元の市川中学、高校に進むと、体育先生で石川という名の先生がいた。この先生は大の三越びいきだった。自分の着る物は全て三越で買うといっていたが、大きな事をいうので大風呂敷、またの名を三越と生徒達は影でアダ名していた。クラスの体育の担当ではなかったが、科目の先生が休んで休講になると、自習の監視役としてこの先生が代理でやってくる。別に授業をするわけではないので雑談になるが、この先生は身に着けているものを褒めると喜ぶ。今日は何を褒めるか皆で考えるが、褒めてもらいたい物は仕草を見ていると大体分かる。真っ赤なネクタイしてきて、先ほどから何回か結びの部分に手を当てている。

「先生、そのネクタイいいですねー!また三越で買ったんですか?」と目ざとい生徒がいうと、わが意を得たりと「そうだよ、分かるか」もうニコニコして急に機嫌がよくなる。単純でちょう可愛い!ついでに靴も褒めたりしてあげる。ところがある時、この先生がとんでもない行動に出た・・・。なんと色の濃く着いたアランドロンが「太陽がいっぱい」でかけたようなサングラスをかけて、突然教室の戸をガラリと開け入ってきたのだ!これには生徒達もびっくりで開いた口が塞がらない(巷ではサングラスが流行り始めていた頃で先生も買ったのか?)すかさず生徒が「先生、それも三越ですか?かっこいいですね!」と褒めると、先生は「うん」とうなずきそのサングラスをかけたりはずしたり、日にかざしたりしていた。

写真は工房の佐竹豊さんの作品のゴブレット、これを陶器で作るのは非常に難しいが、焼くのは変形するのでもっと難しいです。(千葉県八千代市勝田台、勝田陶人舎)

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