アンカレウドン

まだ今のロシアがソビエトと呼ばれていた頃、軍事機密の保持と防衛の理由でロシア上空を日本や欧米諸国の旅客機が飛べず、殆ど全ての航空会社のヨーロッパ便は、アラスカのアンカレッジを経由していた。しかしこの行程は時間がかかる。まず羽田からアンカレッジまで6時間。アンカレッジで給油のため飛行機を一度降り、ターミナルビルのロビーで3時間の休憩だ。再び飛行機に乗り込みヨーロッパの主要都市へは10時間、およそ20時間もかかった。でもまだ往きは気持ちが高揚しているので良いが帰りが困る。旅の疲れとエコノミークラスの狭い座席での長旅はもはや拷問に近く、やっとの思いでヨーロッパからアンカレッジにたどり着く頃にはもうヘトヘトだった。

「あれー、なんだこの懐かしい香りは?」眠い目をこすりアンカレッジ空港のロビーの長椅子に座り生アクビを繰り返すと、どこからか醤油らしき香り!立ち上がり臭いをたどると、去年まではなかった土産物屋の隣にうどん屋が開店していた。店内を覗くと駅蕎麦のようにどんを茹で上げている。でもメニューには月見うどんが十数ドルとえらく高い!「あと6時間我慢すればもっと美味いうどんが日本で食えるはずだ」と思いつつも日本人で賑わう店内に入る。しかし外国人はウドンなどに全く興味なく、遠くから不思議そうに眺めている。私は差し出された白い発砲スチロール碗の月見うどんに目を移し、それを2,3本を箸でつまみ啜ってみた。ふやけて腰のないネチネチウドンはだし汁もまずく、地元ホームの駅そば以下であった。

ところで先日近くのショッピングモールのフードコートに、買い物のついでに立ち寄った。見ると丸亀製麺の店頭だけが列を成す。若い人達も意外に多くいて人気があるようだ。ふだんウドンなど食べない私も、ためしに後尾についてみた。そして列が進み厨房で働くスタッフを見て驚く!忙しく働く人の殆んどが70以上に見えるおばあちゃん。その割には手際が良く活発に動く、「元気だなあー」動作に見とれた・・・。うながされて盆を手に素ウドンを頼むと、あとは好みで天ぷらをトッピングするのだという。先ずはカキアゲをとるが、「やばい、チクワの天ぷらが隣にあるあるぞ!」急に親父の顔が浮かんだ。子供の頃から我が家には禁止食材があった。焼いた生揚げ、チクワの天ぷらなどの幾つかだ。これらを食べると男の出世のさまたげになると父親はいっていた。安くて旨いのでそれで満足するようになるらしい。

最近ではラーメンに続きウドンも海外で大人気だという。この丸亀製麺もアメリカで店舗拡大中ときく。醤油の味と香りが世界中に広まった。この歳になるともう出世へのこだわりもない。次回はチクワの天ぷらをトッピングするか?

(勝田陶人舎・冨岡伸一)

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です