割烹

かつて静岡の婦人靴メーカーに、月に一度デザインの打ち合わせに行っていたことがある。仕事も終わり夕方になるとメーカーの社長が出資していた繁華街の割烹料理屋に、ときどき飲みに連れて行ってもらう。店に入りカウンターに腰掛けるといきなり「冨ちゃん、亀食うか?」と聞かれので「はい」と答えた。私は亀は初めてで社長の進めに素直に乗ることにした。亀とはスッポンのことで養殖場のある浜松に近い静岡では、東京より食べる頻度も多いとか?以前からスッポンの料理方には、非常に興味をもっていた。赤坂の柳原料理室に通っていた時に柳原一成先生が「ここではスッポン料理は危険なのでいたしません」断言したので、「スッポンはそんなに危険なのか?」興味を持ってた。

そこで板さんに頼んでカウンター越しに、サバキ方を見学させてもらうことにした。最初まずスッポンをまな板の上に逆さまに寝かす。するとスッポンは起き上がろうとしてその長い首を伸ばしてくる。そこでその伸びた首を包丁ではねるのだ。次にスッポンを手で持ち、首を下に向けると水筒の様に鮮血がしたたり落ちる。それを小さいコップで受け取り度数の高い焼酎で割る「はいどうぞ、元気でるよ、冨ちゃん」板さんに急に手渡されたが、固辞して社長にパスした。「飲んでみれば良いのに」と社長も言ったが。以前にスッポンの鮮血にはジストマ菌がいることもあると聞いていたので、興味はあったがやめておいた。

でもスッポンは鍋にすると非常に美味い。油もあり身がプリプリでコラーゲンたっぷり、滋養強壮で美容にも良い。そして最後に食べる雑炊もまた格別だ。しかしなぜスッポンには甲羅が無いのか?性格が荒く非常に攻撃的なので、ディフェンスの亀と違いオフェンスのスッポンは、甲羅で身を守る必要が無く退化したらしい。でも背中の肉の中には薄い甲羅の骨が残っている。子供の頃「池や沼でスッポンを見かけたら絶対に近づくな」と注意されたが実際にスッポンに出会うことはなかった。スッポンに噛まれたら雷が鳴るまで絶対に離さない!との通説があるが、いずれにしてもスッポンは歯が鋭く噛まれたら大変だ。

写真は自作の皿と箸置きです。(千葉県八千代市勝田台、勝田陶人舎)

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