コノワタ

「こんな気持ち悪い生き物、最初に食べた奴はえらい」ナマコ酢を箸で取りシゲシゲ眺める。でもナマコ酢以上に不思議な食べ物は海鼠腸(コノワタ)ではないだろうか?コノワタ(海鼠腸)はウニ、カラスミとならんで日本食の三大珍味であるという。コノワタはナマコの内臓で一匹のナマコからタコ糸くらいの細い管が一本しか取れない。それを集めて塩辛にするには沢山のナマコが必要で、値段も非常に高い。私も今までに一度しか食べた記憶がなく、味もはっきりとは覚えていない。日本酒に合うとされるが、私はカラスミの方がまだ値段も安くマシだと思う。

30代の頃、海外のファッション動向を視察するために年に一度はパリを訪れていた。何人かでツアーを組んでいくわけだが、昼間は各々の仕事の都合で別行動、しかし夕食は数人で出かける。するとその中には日本食しか食べられないという人が必ずいるもんだ。しかたなくパリの日本食レストランを探し出し、そこに行くわけだ。私は好き嫌いもなく、現地主義なのでその国の料理が食べたい。でも一人での食事もつまらないので同席することになる。当時パリではまだ日本食レストランも少なく値段も高かった。しかし日本人が経営しているパリの日本食レストランに入るとそこは別世界、ウエイターも日本人で客も殆ど日本人だけ、確かに気が楽である。料理も刺身から天麩羅まで種類もあるが、連れの一人メニューであるものを見つけ注文した。

その言葉に私は一瞬、唖然としたのだ。「俺はコノワタ!」確かにメニューの下のほうにコノワタと書いてある。でもここのメニューには値段の表示が無い。「スーさんパリでコノワタですか、何かほかにないの?」口に出そうになったがぐっとこらえた。結局この日も会計は割り勘で、コノワタの値段はついに分からずじまいだった。帰りがけに「スーさんパリのコノワタの味いかがでしたか?」と聞いてみた。「うん、今まで食べたうちで一番美味かったよ!」でもこの話、そのご我々業界人の間で尾ひれがついて話題になった「パリまで出かけコノワタを食ってきた奴がいるんだってさあ、日本では経験したことがないくらい美味かったらしい」落語の目黒のサンマである。やっぱりコノワタはパリにかぎる。お後がよろしいようで!

写真のお皿、大きい方はカラスミ、小さい方はコノワタでどうか?でも残念中身が無い!(千葉県八千代市勝田台、勝田陶人舎)

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