イチゴ

「イチゴにも旬はある」イチゴはいま殆どがハウス栽培され一年中店頭に並んでいるが、私の子供のころは全てが露地栽培でイチゴは5、6月頃の一瞬の果物であった。実は市川は当時、梨と並んでイチゴの主産地でもあったのだ。家の近所の畑でもイチゴがあちこちで栽培されていて、人のいないのを見計らい垣根の下から畑にもぐりこみ、赤く実ったイチゴを何個かツマミ食いしたこともある。イチゴ畑は実をつけ始めるとイチゴの植わる両サイドに稲ワラが敷かれ、イチゴの実が直接土に触れるのを防いでいた。そして出荷シーズンになるとイチゴは20個程が小さな木箱に綺麗に並らべられ、正面に市川イチゴと書かれたラベルが貼られて、市内の八百屋でたくさん販売されていた。

その頃のイチゴは今のイチゴより少し柔らかく酸っぱい!そこでガラスのカップにとり潰して砂糖とミルクをかけるか、甘い練乳をかけて食べた。練乳は小さな缶詰に入っていて、缶きりで穴を開け上から垂らす。赤いイチゴと白い練乳のコントラストは見た目もよく、非常においしかった。「あれ、なぜだろう?ふと気が付くと最近五月になっても市川のイチゴを見かけなくなる」このころ急速に始まった宅地開発による畑の消滅と、温暖な気候などを利用して早めに出荷される、静岡の石垣イチゴなどが出回ってきたことが原因だった。そして徐々にイチゴのハウス栽培が全国的に広まると、イチゴは一年中栽培されるようになり、旬が希薄になっていった。今では私も好きなイチゴのショートケーキなどは年中食べられる。

「あんらー!」イチゴをスプーンで潰そうとした瞬間、器から勢いよく飛びだした。「すいません」とあやまったがテーブルにミルクが飛び散る。この頃こんな経験は誰でも一度や二度はあったと思う。下の丸いスプーンではイチゴは滑って潰しにくかった。そこでしばらくすると誰が考えたのか、下が平らで凸凹した滑りにくい、イチゴ専用のスプーンが登場してくる。我が家でもさっそく購入し長く使っていたが最近見かけない。今のイチゴは甘いので何もかけずにケーキ用のホークでそのまま頂く。そこでほとんど使用しないので処分したようだ。アマオウなどのイチゴは大きく一口では食べられず、数口で食べることもある。

イチゴを潰して砂糖や練乳を加えたらその美しい形もだいなしだ。でもたまにはイチゴに練乳をかけて食べてみたい。(千葉県八千代市勝田台、勝田陶人舎)

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